高橋大輔「シングル引退で一度は離れたアイススケート。32歳で現役復帰、アイスダンス転向。競技生活は引退しても氷上でのパフォーマンスは生涯現役で」
◆アイスダンスという武器を持って挑む 第2弾に出演した2019年は、アイスダンスへの転向の直前。『氷艶 hyoen2019-月光(あ)かりの如く-』には、のちにパートナーとなる村元哉中(むらもとかな)ちゃんも出演していました。 以前から哉中ちゃんには誘いを受けていたので、リハーサルで新潟へ合宿に行った時、2人でアイスダンスのトライアウトをしました。誰もいない早朝に。これが1人で滑るのとはまったく異なる感覚で、面白かった。 当時の僕は、アイスショーなどで女性と組んで滑ることはあったのですが、照れもあってどうにも苦手で。でも今後エンターテイナーとして極めていくなら、絶対に必要な技術だとは思っていました。 一方で、シングルで勝負したいという気持ちもあり……。でも、スケートを追究する方向性が哉中ちゃんとは一致していて。だから、「挑戦してみるか。やってみないとわからないし」と思えました。 アイスダンスに打ち込んだ3シーズンは僕にとって大きな経験になったと思います。同じスケートでも、シングルとアイスダンスでは、滑りがまったく違う。靴一つとっても違いますし、カーブを描く際も、1人と2人では体の使い方が異なります。 距離を詰めながら、お互いが邪魔にならないようにスケーティングしなければならない。見ているのとやってみるのでは大違い。最初は、僕もかなり戸惑いました。一からのスタートだったと言っても過言ではありません。 そうしてアイスダンスの技術を習得したことが、僕の武器というか、特徴というか、自分を支えるものになっているといい。積み重ねてきた経験が、今後の舞台でどこまで生かせるのか。果たしてエンターテインメントの世界で通用するのか。僕自身も楽しみです。
◆プロデュースする側に自分が回ってみて 今年2月には、『滑走屋』というアイスショーをプロデュースする機会もいただきました。競技スケートの面白味は、ピリピリとした雰囲気の中で、スケーターは練習してきたものを披露し採点され、お客様はドキドキハラハラしながら観戦することにあります。 一方で、アイスショーが見せるべきは《世界観》。試合に失敗はつきものですが、アイスショーに失敗は禁物です。だから、難易度を落としても、常に安定したいいパフォーマンスを見せていく必要がある。お客様にご覧いただくスケートのスタンスが全然異なります。 僕はミュージカルや舞台を観ることが大好き。世界に入り込み、すっぽり包まれるあの感覚は何物にも代えがたい。アイスショーでは、出演メンバーをどうつないでいくか、どんな流れを作れば観客を引き込んでいくことができるのかに思いを巡らせます。自分ならこういうものを観たいという感覚が頼りですね。 プロデュースする側に自分が回ってみて、新たに見えてくることもありました。プロデューサーの仕事は多岐にわたります。メンバーのスケジューリングから始まって、ホテルや食事の手配、PRの仕掛け方など、同時進行でさまざまな決断をしなければなりません。 みんなそれぞれがいいものを作りたいと思っているのだけれど、どうしても立場的に意見が対立してしまうことがある。その押し引きのバトルに折り合いをつけていくのも僕の役割でした。こういう仕事は絶対に苦手だと思っていましたが、意外にも嫌じゃなかったようです。 何かを生み出すためにぶつかり合うことは大変だったけれど、そのぶんやりがいもありました。大変と言いながら楽しそうですか? 確かに僕にとって「大変」というのは、ポジティブな言葉かもしれませんね。