じつは「南海トラフ巨大地震」では「東京」も大きな被害…その具体的な想定の数値
長周期地震動が生じる可能性大
そして、本震が小さかった場合には、一定時間経過後に運転を自動再開する「地震時管制運転リスタート機能」付きのものもある。問題は、途中階で停止したまま閉じ込め者が出た場合である。その時は点検要員(フィールドエンジニア)を待って救出してもらうことになる。また、余震が続いたり連続大地震が発生した場合、閉じ込め者がなくても、エレベーター運転再開には点検要員の安全確認が必要となる。例えば、エレベーター利用率が高い時間帯に大規模地震が発生した場合、多数の閉じ込め者や停止したままの数万~10万台に上るエレベーター全てに点検要員がすぐに駆け付けることはできないし、仮に駆けつけられても停電であればすぐに運転再開はできない。つまり、超巨大地震発生時、多くのエレベーターが長時間停止したままになるかもしれない。過去にも運転再開まで1週間かかった例もある。そうなると、超高層・高層建物上層階・タワーマンションなどは、高層孤立で生活や業務に支障をきたす。建築基準法で定めるエレベーターの設置義務は高さ31m(7~10階)以上の建築物だが、一般的なエレベーター必要階数は6階建て以上といわれる。21年末現在、都内の6階建て以上の建築物は8万1083棟に上るという。 エレベーター停止、停電、断水の長期化に備え、高層マンション居住者は、最低でも1週間分、できれば2週間分の防災備蓄が推奨される。また、高層階オフィスにある企業は、社員の安全と、帰宅困難者長期滞在など、巨大地震後の結果事象別の展開予測をBCPに織り込む必要がある。それだけではない。東京、名古屋、大阪の三大都市圏で懸念されるのは、23年2月から緊急地震速報の発表対象に加えられた長周期地震動である。 そもそも長周期地震動とは何か。地震発生時、震源断層から様々な周期(揺れが1往復する時間(秒))の地震動が発生する。そのうち1周期が概ね2秒未満のものを短周期地震動と呼び、1周期2~10秒を超える地震動を長周期地震動と呼んでいる。南海トラフ巨大地震のような大規模地震が発生すると、木造家屋に被害を及ぼす激しい短周期地震動だけでなく、数秒から10秒を超えるような、ゆっくり長く揺れる長周期地震動が生じる可能性が高い。 ちなみに、南海トラフ巨大地震による東京都の被害想定は、最大で全壊建物1300棟、そのうち津波による全壊棟数は1200棟。深夜の人的被害は最大で1800人と想定している。 <東京・大阪・名古屋で「非常に大きい揺れ」が発生する…「南海トラフ巨大地震」で引き起こされる「長周期地震動」の恐ろしさ>の記事に続きます。
山村 武彦(防災システム研究所 所長)