じつは「南海トラフ巨大地震」では「東京」も大きな被害…その具体的な想定の数値
「震度5強」でも油断は禁物
東京の災害リスクは首都直下地震だけではない。想定される南海トラフ巨大地震が発生時、東京都の大部分が「震度5強」と推計されている(表-1)。しかし、震度5強だからと油断はできない。気象庁の震度階級関連解説表によれば、「震度5強の揺れは、大半の人が恐怖を覚え、物につかまらないと歩くことが難しいなど、行動に支障を感じる。棚にある食器類や書棚の本で、落ちるものが多くなる。テレビが台から落ちることがある。固定していない家具が倒れるものがある。ドアが開かなくなることがある。窓ガラスが割れて落ちることがある。補強されていないブロック塀は崩れることがある。据付けが不十分な自動販売機も倒れることがある。自動車の運転が困難となり、停車する車もある。震度5強で、耐震性の低い木造建物(住宅)は、壁にひび割れ・亀裂がみられることがある。耐震性の低い鉄筋コンクリート造建物は、壁、梁(はり)、柱などの部材に、ひび割れ・亀裂が入ることがある。地盤には亀裂や液状化が生じることもある。斜面等では落石やがけ崩れが発生することがある」。という揺れである。 過去にも、震度5強で甚大な地盤被害を被った事例がある。22年3月16日福島県沖地震の時、震央から90km以上離れた仙台市は震度5強だったが、299件もの宅地崩壊被害が出ている。宅地を支える地盤、擁壁、法面などが崩れたのだ。その多くが比較的新しい造成地だったが、そこは東日本大震災時の震度6弱で全く被害がなかったのに、今度は震度5強で擁壁などが崩壊してしまった。地震の揺れはどれも同じではなく、それぞれ周期が異なることもあり揺れ方も微妙に変位するので、一概に震度の大小だけで安心はできない。市の職員が「危険度判定票」に基づき宅地崩壊場所を判定したところ、「大被害」39件、「中被害」102件、「小被害」158件だった。大被害や中被害の住宅は、大雨や地震に見舞われると、さらに崩れ建物まで倒壊する危険があり、親せき宅に避難する人がいるなど、現場は深刻な状況に陥っていた。 また、最大震度5強の時のエレベーターの事例も紹介したい。東京都内のエレベーター数は17万1628台(21年現在の保守台数/日本エレベーター協会調べ)。東日本大震災の時、都内でエレベーターが約6万4000台緊急停止し、そのうち閉じ込めが約200件あった。あの時、東京都の震度は最大震度5弱~5強だった。南海トラフ巨大地震でも都内の大部分が震度5強と想定されているが、それは短周期地震動の揺れ。南海トラフ巨大地震では東日本大震災を上回る長周期地震動の揺れも襲うと推計されている。となると、エレベーターの緊急停止台数や閉じ込め者数が東日本大震災より多くなる可能性がある。 普通、エレベーターは震度4程度の揺れを感知・又は大揺れ(S波)が来る前の初期微動(P波)を感知すると、「地震時管制運転装置」が作動し、最寄り階に緊急停止してドアが開く仕組みだ。なので、地震発生時にエレベーターが緊急停止すること自体は問題なく、それは安全システムが正常に機能した結果である。