個性派の宿 おすすめ3選、長野・京都・草津…有名建築家の「作品」に泊まる
連載《とっておきの旅》
日本を代表する建築家が手がけたホテルや旅館は、建築やアートに興味がある人はもちろん、個性あふれる空間で非日常的なひとときを楽しみたい人にもうってつけ。今回はプライベート感を味わいながらくつろげる3軒を厳選して紹介する。 【写真はこちら】安藤忠雄、隈研吾、藤森照信の3氏は何を仕掛けた? 外観から室内まで全部チェック!
■藤森照信氏による、国内初の「泊まれる作品」
JR中央本線・小淵沢駅(山梨県北杜市)から車で10分ほど。美しい田園に囲まれた小さな高台に建つ「小泊Fuji」(長野県富士見町)は、建築家・建築史家の藤森照信氏が設計した1日1組限定、一棟貸しの宿。 「自然との調和」を最大のテーマとする藤森氏は、植物や自然素材を独自の手法で建物に取り込む設計で広く知られている。ここ「小泊Fuji」も、外壁には焼杉の板、屋根には手曲げの銅板と、藤森建築ならではの意匠が印象的だ。屋根にぽつぽつと植えられているのは富士桜の木。この地域のシンボルツリーとして親しまれている樹齢300年のしだれ桜からインスピレーションを得たという。 漆喰(しっくい)の白壁と藤森氏のデザインによるクリ材の家具がやわらかなムードを醸し出す室内は、まるで住まいのような居心地のよさ。チェックイン後は施設のスタッフはあえて常駐せず、プライベートに過ごせるような配慮がなされている。テラスやリビングでくつろぎながら、田園風景とその向こうの南アルプスや八ケ岳、富士山を眺めていると、刻一刻と変わる自然界の息吹が五感に響き、いつまでもここで過ごしていたくなる。 オーナーの山越典子氏はもともと藤森建築のファン。2010年に藤森建築の茶室制作に関わったのが縁で、宿泊施設の設計を依頼した。構想から13年を経た2023年8月、念願の「小泊Fuji」をオープン。南アルプスと八ケ岳、富士山の三景を一度に拝める立地はこのあたりでも珍しいそうで、「理想的な環境に恵まれました」と山越氏。
■ミニキッチン付きのリビングで、暮らすように滞在
リビングはミニキッチン付き。夜は地元の旬の野菜をたっぷりいただけると人気の「しゃぶしゃぶセット」(要予約)をいただくもよし、近隣の道の駅で調達した素材で調理をするもよし。朝食に用意されているホットケーキミックスは、食のプロでもあるオーナーの山越氏お手製のオリジナル。長野県産の小麦粉に玄米粉やそば粉などをブレンドしたもので、こちらもおいしいと評判だ。 施設内には「パントリー」と名づけられた宿泊者専用の売店もあり、クラフトビールや近隣の農家のお米といった地元のグルメを購入できる。