柄本佑の道長の色気、吉高由里子のまひろの魅力…『光る君へ』最終回で振り返るあのシーン
男女の心情の違いを見事に対比させた名場面
女性から圧倒的に共感の声が多かったのが、次のシーンだ。 道長に別れを告げ、海辺を走り抜けるまひろ(第45回『はばたき』より) 『源氏物語』を書き終えたまひろは「旅に出たい」と家族に打ち明ける。娘の賢子(南沙良)を太皇太后・彰子(見上愛)の女房として後を託すと、やってきた道長に「行かないでくれ」と懇願される。だが、「これ以上、手に入らぬお方のそばにいる意味は何なのでございましょう」「ここらで違う人生も歩んでみたくなったのでございます」と告げ、さらに、賢子は道長との間にできた娘だと告白して旅立つ。太宰府へ向かう途中、まひろは訪れた海岸を晴れ晴れと、どこまでも走っていく。 ◆物語を書き終え、道長との関係にも別れを告げ、それまでの重圧から解放されて、海辺をどこまでも走っていくシーン。執筆も道長との長年の関係も、すべてから解放されて、少女のように海岸を走り抜けていくまひろの姿に、“女ってそうなんだよな~”と思わずつぶやいてしまった。その反面、まひろに去られ、出家を決めて失意の中で涙を流しながら剃髪する道長……。この対照はあまりに秀逸です!(50代 女性) ◆道長に「おまえとは……もう会えぬのか?」と言われてもキッパリ手を押し戻すまひろの決意の強さ。そして、号泣しながら出家で剃髪するなんだかちょっと情けない、でも人間臭い道長。そして、まひろは海岸を最初は少し小走りに、最後は加速度を増すように走る。男女の違いがめちゃくちゃおもしろく描かれていると思った。道長は晩年どんどん情けなくなって、でも、そこがめちゃくちゃダメ男なんだけど色っぽいというか……。柄本佑さんだからこそうまく演じられたと思います。(40代 女性) ドラマ前半で、印象に残っているシーンとして多くの人があげたのが、散楽の一員で盗賊として登場する毎熊克哉が演じた直秀を埋葬する場面だった。 直秀や散楽メンバーの最期(第9回『遠くの国』より) 散楽の一員として、街角で公家社会を風刺するお芝居や曲芸を披露している直秀。彼のもう一つの顔は、貴族の邸宅に忍び込んで手に入れた盗品を貧しい庶民に分け与えている“義賊”だった。ひょんなことからまひろを助けたことで、まひろ、道長と交流を深める直秀だったが、ある日、盗賊として捕らえられ、無残にも殺害されてしまう。 ◆前半で特に忘れられないのが、直秀が非業の死をとげ、まひろと道長が泣きながら必死に直秀を埋葬するための穴を掘るシーン。道長が善かれと動いたことが、結果的に直秀が殺されることとなり、世の中の先を読む難しさ、恐ろしさ、無情さを二人が思い知り、悲しみのどん底で絆を深めていったところ。権力を軽やかに風刺していた直秀たちの自由な生き方が眩しかっただけに、残酷な最期はショッキングでした。でも、まひろや道長の中に直秀はずっと生きていて、その後の二人の行動の原点になったかと思うと感慨深いです。(50代 女性) さらに、後半の第42回『川辺の誓い』でのまひろと道長の宇治川でのやり取りが究極のラブシーンだったと語る人も。 病に倒れた道長とまひろとの川辺の会話(第42回『川辺の誓い』より) 道長は、三条天皇(木村達成)と覇権を争い、自身の権力を守ろうと手を尽くすが、なかなかうまくいかず、その心労で倒れてしまう。まひろも光源氏の死を区切りに『源氏物語』の執筆を終えようと、一旦実家に戻った。そんなとき、道長が危篤だと百舌鳥彦(本多力)から報告を受けて、まひろは道長が静養する宇治の別邸へ。気力を失った道長を川辺に誘う。 ◇最初の逢瀬から様々な言葉を交わしてきたまひろと道長だったけれど、この場面が一番印象的でした。自信や気力を失った失意の道長に、自らも『源氏物語』を書き終え役目を終えたとして、「この川で二人、流されてみません?」と道長にほほ笑みかけるまひろ。「おまえは、俺より先に死んではならぬ。死ぬな……」と告げる道長に対して、「ならば、道長様も生きてくださいませ。道長様が生きておられれば、私も生きられます」と返すまひろの言葉に嗚咽する道長……。人生の儚さもわかる年齢になった二人。妻でもなく、妾(しょう)でもなく、互いの生き様を尊重し合う同志ともいえる、そんな二人のやり取りがなんとも愛おしくせつなかったです」(50代 女性) ◇後編では、まひろ&道長以外の場面も含めて、「私たちが勝手に選ぶ『光る君へ』名場面」を引き続きお伝えする。
牧野 容子(エディター・ライター)