チャン・ヨンウク | 対外経済政策研究院副研究委員

　2024年は世界で歴史上最も多くの人が投票に参加した年だった。76カ国で約42億人が選挙を行った。この1年の間に対外経済政策研究院が発刊した懸案報告書のリストを見ると、どこでどのような選挙が行われたかが分かる。1月の台湾総統選挙から始まり、3月にはロシア大統領選挙、4月にはインド総選挙、5月には南アフリカ共和国総選挙、6月にはメキシコ大統領選挙と欧州議会選挙があった。7月には英国とフランスで早期総選挙が行われ、8月にはバングラデシュで反政府デモが起き、新政権が発足した。10月には日本の総選挙が、そして11月には最も重要な米大統領選挙があった。 　あまりにも当然なことに、経済は政治と切り離せない。対外「経済政策」研究院が各国の選挙に注目した理由は、その結果により政府の経済政策が変わるためだ。特に、今年のように主要国家で選挙が行われる時は、あらかじめ経済的影響を分析し、対策を設けなければならない。米国を担当する同僚たちは、両候補の政策に対する報告書をそれぞれ書いておき、選挙結果が出た翌日に当選者バージョンの報告書を発表した。米国ほどではないが、欧州でも重要な選挙がかなり行われており、筆者も慌ただしい一年を過ごした。政治（politics）と経済（economy）を混ぜて作った「ポリコノミー」という言葉が、筆者の勤務する研究院では一年中話題だった。 　ポリコノミーは政治が経済に及ぼす影響だけでなく、経済が政治に及ぼす影響も意味する。時には経済状況が選挙結果を左右することもある。例えばドナルド・トランプ氏の支持基盤は自由貿易の恩恵から排除された労働者階層だ。中国製の低価格製品の襲来に米国はなすすべもなく、ラストベルトの工業団地は日増しに衰退していった。ただでさえ厳しい状況なのに、移民者たちが大勢入ってきて良い働き口を獲得した。関税を引き上げ、国境を塞いで製造業を再び興すというトランプ氏に、半分近い米国人が支持を送った。 　経済状況の悪化による不満は、欧州の政治地形も変えた。コロナ禍以降、高金利、高物価の状況が続いたことで、家計の実質所得が減った。戦争中の無理なエネルギー転換は生産費用を上昇させ、厳格な環境規制が技術革新に対する投資を遅らせた。移民者と難民に対する財政支援は内国人と外国人の間で対立の火種になった。政権勢力がこれといった代案を示せない間、原理主義とポピュリズムが勢力を伸ばした。今年の欧州議会と欧州の主要国の選挙では、いわゆる極右に分類される政治勢力が過去最大の支持率を記録した。 　新しく浮上した彼らが、自国の有権者を優先する政策を展開するのは避けられない。「再び○○を偉大に」流の孤立主義政策は世界経済にとって明らかな負担になるだろう。トランプ氏はまだ就任前なのに、メキシコ、カナダ、欧州連合など最友好国に関税を課すと豪語しており、欧州はこれに対抗して報復関税や輸出統制を検討している。域内の先端産業の競争力強化を目的とした補助金競争は、今後さらに激しくなる兆しを見せている。戦後これまで世界経済の繁栄を支えてきた国際分業体系は、主要参加国の国内政治の動学によって徐々に解体されている。 　そのような中、韓国の状況は厳しい。12月の韓国は、政治が経済を揺るがした最も赤裸々な事例として記憶されるのではないかと思う。いまだに信じられない不法な非常戒厳宣布によって莫大な経済的損失が発生した。非常戒厳後のわずか3日間、外国人投資家らはKOSPI（韓国総合物価指数）市場から1兆ウォン（約1070億円）以上の株式を売り渡し、韓国銀行は金融危機の時よりさらに多くの流動性を市場に供給した。戒厳の余波に米国発の衝撃が加わり、ドルに対するウォン相場が15年ぶりに最高値を記録した。政治不安は消費、投資、輸出をすべて萎縮させた。 　実際、さらに大きな問題はこれからだ。 大統領権限代行と長官らが収拾策を講じているが、今の危機は、急ごしらえの短期対策で乗り超えられる類のものではない。破片化している世界経済の秩序に、どのような哲学を持ち、どのように適応するかを決めなければならず、積極的に友好国を訪れ、連帯の妙手を見出さなければならない。政治的地形変動の裏にある国内の資源配分の問題も、長期的ビジョンを持って解決していかなければならない。いずれも大統領不在のままでは解決できない課題だ。 　政治的安定がすなわち経済的利益だ。「ポリコノミーの年」を送りながら、2025年には何としても弾劾手続きが早く完了し、より良い政治、より良い経済のために準備された政府を迎えることができることを期待する。 チャン・ヨンウク | 対外経済政策研究院副研究委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )