マネスキンのダミアーノ・デイヴィッドが明かす、終着点からスタートしたソロ活動の真意
マネスキンとは一線を画したサウンド
―共作者でもあるラビリンスをコラボレーターを選んだ経緯を教えて下さい。 ダミアーノ:実は僕自身がラビリンスを指名したというわけではなくて、そもそも彼みたいなアーティストとコラボできるとは思ってもみなかった。言うなればうれしい偶然が重なって、一緒にやれるかもしれないって話が飛び込んだんだ。そんな素晴らしいオファーに、ノーと言えるわけはないからね(笑)。ラビリンスと作った曲でソロ・デビューできるというのは、本当に光栄なことだよ。 ―ギターの音が一切聞こえてこない、マネスキンの世界とは一線を画したサウンドは自然な成り行きなんでしょうか? それとも、ある程度意図したこと? ダミアーノ:どちらとも言えるんじゃないかな。もちろん、バンドとの差別化は僕にとって重要なことではあった。ふたつのプロジェクトの音楽性がぶつかるとか、差が曖昧で混同されてしまうという事態は避けたかったからね。それは、僕にもバンドにもフェアじゃないと思う。と同時に、こういうサウンドになったのは自然な成り行きでもあって、僕というひとりの人間から発せられた音楽だから、完成に至るまでのプロセスは異なるし、妥協する必要がなかった。……いや、“妥協”というのとは違うな。バンドとしての音楽作りにおいては、そもそもメンバーの共同作業である以上、お互いに譲り合う部分が出てくることは織り込み済みなんだよ。でもソロ・プロジェクトに関しては、自分の思考の流れを途中で無理やりカットしたりする必要は一切ない。だからこそ、必然的に異なる結果に辿り着いたんだと思うよ。 ―ゴスペルやクラシック音楽の影響を感じさせる、壮大なプロダクションですよね。 ダミアーノ:これは「Silverlines」だけではなくアルバム全体に言えることだけど、今回の僕は、非常に広いエモーションの振れ幅を描き出せるサウンドを探し求めていた――と説明するのが妥当なんだと思う。だからこそすごくドラマティックなサウンドが生まれたわけで、シアトリカルでさえあるよね。歌詞の激しさに相応しいサウンドを追求した結果なんだよ。 ―歌詞もバンドの曲とは趣向が異なっていて、非常に率直な言葉で、心の中身を露わにしています。男性として、自分の内面をさらけ出すことに抵抗はあったんでしょうか? ダミアーノ:まあね。 ―じゃあ、何があなたの肩を押したんですか? ダミアーノ:う~ん、それをやらないという選択肢は僕にはなかった――と言っておこうかな。もう肉体的に限界に達していて、そうせずにいられなかったんだよ(笑)。 ―もしかして、ロックバンドのフロントマンとして一種のキャラクターを演じているように感じることもあったんでしょうか? ダミアーノ:というか、僕らがバンドとして築き上げたものはあまりにも強大であるがゆえに、オーディエンスが自分たちに寄せる「こうあって欲しい」という期待もまたすごく大きくなるし、こっちもそれに応えなければならないよね。そういう意味においては、答えはイエスであり、僕は居心地の悪さを覚えることもあった。とはいえ、オーディエンスが期待するのは自然なことで、僕がマネスキンの一員としてオーディエンスに提示する姿も、間違いなく自分の一部分だ。でもそれが全てじゃないし、僕のほかの側面にも人々に見せる価値があると思っていて、まさにそこにスポットライトを当てるために、ソロ・プロジェクトを始めたんだよ。 ―「Silverlines」を書いた時の心境について教えて下さい。先ほど終着点から始まるという話がありましたが、確かに、嵐のあとの静けさを描いた曲ですよね。 ダミアーノ:この曲はソロ・アーティストとして曲作りを始めて、最初の段階で生まれたから、僕の頭にあった心情はやっぱり、“希望”だと言えるのかな。希望を投影しているような音楽を作りたいという気持ちがすごくあった。日本のみんなも気に入ってくれるよう願っているよ。そうすればまた日本に行く理由ができるし、できるだけ長い間そっちにいたいんだよね(笑)。僕は心から日本を愛しているから。 ―MVはどんなコンセプトのもとに撮影したんですか? ダミアーノ:とにかく、曲そのものが含むドラマ性に見合った、シネマティックな作品を作り上げることを目標に掲げていたんだ。非常に隠喩的でもあり、僕自身すごく気に入っているよ。 ―そのMVを始め、すでに世に出ているヴィジュアルでのあなたは、常にシャープなスーツ姿ですよね。ソロ活動のユニフォームみたいなもの? ダミアーノ:そんなところかな。“ユニフォーム”って言葉はいいね。うん、ユニフォームって呼ぶことにしよう(笑)。 ―究極的に、ソロ・アーティストとして一番伝えたいのはどんなことなんでしょう? ダミアーノ:僕としては、自分が多面的な人間だということ、全範囲のエモーションを感じているということが伝わればうれしいね。ほかの同年代の男性たちと変わらない悩みを抱えているんだってことが。こういう仕事をしていて、すごく恵まれた生活を送ってはいるけど、僕もひとりの生身の男に過ぎないんだよ。
Hiroko Shintani