「夜行急行」が鉄道観光を復活させる? 「寝台2両+座席主体」という新提案、“夜行専用会社”があったら面白くないだろうか?
筆者の意見
筆者がこの提案でよいと感じた点は、客車の特性を生かし、廉価な座席車と寝台車を柔軟に併結して料金を調整できるところだ。少し年齢が上の鉄道ファンなら、 ・急行ちくま ・急行利尻・大雪 などを思い出すかもしれない。また、東海道本線のムーンライトながらのような昼行特急車両を使った夜行列車は惜しまれつつ廃止された。 夜行寝台の需要とこれに対応するニーズを総合的に考えると、コストを抑えた座席中心の車両に寝台車を組み合わせる方法は、長距離移動に対応でき、観光やビジネスの両方に需要が見込めるだろう。 さらに、「JR夜行」という専門の会社を設立することで、夜行列車の標準化が進み、再び活気を取り戻す可能性があると筆者は思っている。インバウンドにとっても、日本の鉄道文化を体験できる貴重な機会となり、その需要を取り込む大きな利点がある。鉄道会社にとっても、新たな顧客層を獲得でき、夜間の鉄道設備を最大限に活用できる点が理にかなっている。 「JR夜行」が設立されると、夜行列車専用の運行管理が可能になり、効率的にダイヤを組むことができるようになる。特に、人気の観光地へのアクセス向上を目指した路線設計は、観光業の活性化にもつながる。 例えば、東京~大阪間の夜行列車は、かつての急行銀河のようなビジネス移動手段だけでなく、京都を中心とした観光地へのアクセス手段としても機能するだろう。運行管理の面では、車両開発を柔軟に行うことで、利用者動向に応じたフレキシブルな運行が実現できると考えている。
筆者への反対意見
もちろん、以下の観点から反論があるのは理解している。それぞれについて説明する。 ●経済的な問題点 筆者の意見に対する反対意見として、夜行列車は新幹線や高速バスに比べて時間とコストの面で“中途半端な存在”であり、特に時間と費用に敏感なビジネスマンや観光客に選ばれにくいのではないかという指摘がある。また、運行にかかるコストや車両の保守管理に関する懸念もある。列車の種類や運行本数を制限しても、収益を上げるのは難しいという意見も根強い。 貨物専門のJR貨物は、JRの各旅客会社が保有する線路を格安で使用できる「アボイダブルコストルール」を採用している。これは、貨物列車がJRの旅客線を走行する際に固定費を負担せず、修繕費の一部を走行列車本数に応じて負担する仕組みだ。これにより、フルコストの約30%の負担で済むとされている。 JR貨物と旅客会社の線路使用協定は2027年に更新される予定だが、モータリゼーションや少子高齢化、新型コロナの影響で収益が減少しているJRの各旅客会社が、協定更新に賛成するかどうかは不透明だ。「JR夜行」列車にも同様のアボイダブルコストを適用するという意見もあるが、現状では実現が難しいと考えられる。JRグループ全体で貨物と夜行の利益を上げ、それを再配分する方法に対する理解がなければ、提案は実行困難だろう。 ●需要の不確実性 夜行列車の利用者が必ずしも安定するとは限らないという点も課題だ。実際、オンライン会議システムの普及により、出張回数を減らす企業が増えている。新型コロナ禍前の水準に戻ることは難しいと考えられる。夜行列車は寝台車の転用や利用者層の固定化が難しく、集客に苦しむ可能性があるという懸念がある。かつてのカートレインのような新たなニーズに挑戦する必要があるだろう。 ●環境負荷の問題 近年、環境への配慮が重要視されている。夜行列車の運行が騒音の原因となる場合も考えられる。電動車両であれば環境負荷は少ないとされるが、非電化区間ではディーゼル機関車によるけん引が必要となり、騒音やCO2排出の問題が再燃する可能性もある。蓄電池式や発電式の車両もあるが、開発には費用がかかる。