高速道路上でもビル屋上でも肥料なしで育ち電力変換可…有事の食糧難に備え国が栽培を激推しする「野菜の名」
■備えあれば憂いなし 簡単な「どこでも農業」 また、有事が起きてから米→サツマイモに生産転換していては間に合わない。さらに前述の農林水産省の検討内容にも、「(サツマイモだけでなく)たんぱく質やビタミンその他の必須栄養素とのバランスや、食生活への影響なども考慮する必要がある」とある。そこで山川さんが提唱するのが、「どこでも農業」だ。 「超吸水性シートに、あらかじめ種子と肥料を埋め込んでおくものです。いざという時には高速道路やビルの屋上のようなコンクリートの上に広げて、散水機で水をまけばOK。シートは巻いて涼しい場所に保管しておけばいいのです。ハツカダイコンなら1カ月で収穫できます。野菜だけでなく米、麦、大豆やソバも収穫できるでしょう」 「どこでも農業」は、山川さんが農水省に勤務していたころ、国のプロジェクトで有事対策を研究した際に着想したものだという。現段階では、あくまでも山川さんの構想だ。また、同省のホームページには「緊急事態食料安全保障指針」として有事の際のマニュアルも存在し、誰でも見ることができる。 これらの内容を把握しておくことで、いざという時に自分や家族の安全が守られるかもしれない。日々の備えに対する理解は災害だけでなく、食生活についても深めるべきなのだ。 ■サツマイモで持続可能な都市づくりも さらにサツマイモのポテンシャルは、有事の備えにとどまらない。山川さんによると、日常生活にこそサツマイモの力が生かされるという。 「サツマイモは生産も調理も簡単で、ビタミンやミネラル、食物繊維などの栄養分が豊富な『準完全栄養食品』です。しかも、葉や茎も食べられて、捨てるところがほぼありません。サツマイモの甘みは犬や猫も大好きだし、茎葉は牛や豚の飼料として優秀です。さらに、栽培時は葉が何層にも積み重なって地表面を覆うため、ビルの屋上や壁面にサツマイモを植えると、ビル全体を冷やす冷房効果が期待できます。これは“芋緑化”として、既に都市部のビルで採用されています」 さらにサツマイモを食物だけでなく燃料として活用すれば、都市の電力がまかなえて循環型の“エコタウン(エコロジータウン)”が実現すると山川さんは提唱する。環境に配慮した、持続可能な都市づくりだ。 「例えば5万~10万人規模の都市の周辺にサツマイモ畑を作り、その他の農業や酪農、畜産などを行うイメージです。サツマイモを用いたバイオガスを電力に変換して活用する取り組みは、すでに宮崎県都城市の霧島酒造で先進的な動きがなされています」 霧島酒造の「サツマイモ発電」は、焼酎粕や芋くずから生成したバイオガスを電力に変換することで、リサイクル資源の利用率100%を目指しているという。 山川さんが構想するエコタウンは、霧島酒造のような企業の取り組みをより発展させ、循環型で持続可能なエコシステムを、比較的小規模な都市で作るイメージだ。食料やエネルギーの地産地消により、輸入や物流網に依存することのないサステイナブルなシステムができあがる。 「もちろん、用途に適したサツマイモ品種の選定や生産量のシミュレーション、インフラや法整備など、検討すべき内容は多々あります。でも、気候変動や政情不安などによる有事がいつ起きてもおかしくない現代において、検討する価値は十分にあるでしょう」 これは荒唐無稽な話ではない。現実としてサツマイモが、私たちのくらしの救世主になるかもしれないのだ。 参考文献:『サツマイモの世界 世界のサツマイモ 新たな食文化のはじまり』(山川理/現代書館) ---------- 水野 さちえ(みずの・さちえ) ライター 日系製造業での海外営業・商品企画職および大学での研究補佐(商学分野)を経て、2018年からライター活動開始。ビジネス、異文化、食文化、ブックレビューを中心に執筆活動中。 ----------
ライター 水野 さちえ