高速道路上でもビル屋上でも肥料なしで育ち電力変換可…有事の食糧難に備え国が栽培を激推しする「野菜の名」
■サツマイモのエネルギー収支 さて、その山川さんが先ほど口にした「エネルギー収支」とは何か。 簡単に言うと、農作物を生産する際に投入するエネルギーと、農作物が産出するエネルギーの収支を示したもの。投入エネルギーは、生産に使用する肥料やエネルギーなどさまざまだ。農学博士・宇田川武俊氏のデータによると、米の場合は投入エネルギー1単位あたりの産出エネルギーは0.4で、ハウス栽培野菜に至っては0.1をはるかに下回る。一方、サツマイモは1.6と飛び抜けて高い。 「理由は、サツマイモは肥料を与えなくても育つからです。30センチ以上の深さの土があり、15~30℃ぐらいの環境であればどこでも育てられます。サツマイモは茎の中に、空気中の窒素を固定し、サツマイモの栄養分に変える微生物“内生窒素固定菌”を擁しているので、肥料のない痩せた土地でもけっこうよく育つというわけです」 加えて、サツマイモは米に比べて収量も高い。低エネルギー・低コストでたくさん収穫できるとなれば、生産者にとっても収入が増え、メリットが大きいと言える。一方で欠かせないのが、食生活への影響への配慮だ。一日三食がサツマイモになった場合で食生活が貧相にならないよう、食べ方のバリエーションを増やしておく必要がある。山川さんはこう話す。 「弥生時代に日本で普及した米に対して、サツマイモが日本に伝わったのは江戸時代。まだまだ新参者です。栄養や機能性に関する研究も、実はそれほど進んでいないのです」 昭和40年代ごろ、アメリカから安価なコーンスターチが大量輸入されるようになるまでは、でんぷんの原料として生産されていたサツマイモ。現在のサツマイモは焼き芋や干し芋といった青果用だけでなく、ペーストやパウダー状に加工されることで菓子用にも使われる。 先のウクライナ侵攻の影響で輸入小麦の価格が高騰した際に小麦粉の代用品としての米粉が注目された。同様に「サツマイモ粉」の特性や利用法などの研究や、生活への浸透の余地は大きいと言えるだろう。