『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』監督が語る「罪と赦し」。映画制作の背景とは
ガリアーノを追う過程で暴かれたファッション界の矛盾。華やかさの陰にある「ファシズム的」志向
キャンセルカルチャーという出発点からはじまった本作だが、制作が進むにつれてテーマが変容していったとマクドナルド監督は強調する。この映画のテーマは「ファッション業界の闇やファッション業界に起こる『産業としてのファッション vs アートとしてのファッションの衝突』、そして誰かを責めるときの複雑さや曖昧さ、そして個人の複雑な心理」へと発展していった。 「ドキュメンタリー制作が好きな理由の一つが、知らない世界に飛び込めることです。今回、ファッション業界で働くほとんどの人が素晴らしい方々だということを知りました。そして、ファッションは人類学のようなものだとわかりました。その時代時代で、社会が何に価値を見出しているかをファッションから読み取ることができます。 しかし、問題もたくさん抱えていることは明らかです。環境への大きな負荷、エリート志向……。美の基準で誰に価値があり、ないかを決める思考などはファシズム的ともいえるかもしれません。 また、ファッションの『闇』といえる部分があるとしたら、それはファッションが『醜いものを否定すること』で成り立っているところでしょう。ファッションは『人生のすべてが美しくいられる、すべてがファンタジーでいられる』と私たちに感じさせますが、もちろん現実はそうではありません。人生には醜さも存在します。空だけを眺めながら歩くことはできません。足を踏み入れる泥も見つめなければいけません。たくさんの矛盾がファッション業界にはあります」 『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』は、華やかなファッション業界の裏側に潜む問題や人間の混沌さ・複雑さを探るドキュメンタリーだ。ジョン・ガリアーノという人間、そして彼が起こした事件にさまざまな角度から迫り、多面的な視点を与えてくれる。 ガリアーノが真に反省しているかが重要なのか。ガリアーノが置かれていた異常な環境を考慮するべきなのか。被害者が前に進めた瞬間に赦しが訪れるのか。あるいは13年という時間が赦しへと導いてくれるのか。答えは観客に委ねられている。
インタビュー・テキスト by 南のえみ / 編集 by 生駒奨