「授業中は黒衣に徹し、よけいなことは言わない」 生徒のやる気を引き出す、中高一貫校の「探究授業」に密着
■ウォーミングアップとしての自己紹介 「授業の最初に、班の中で自己紹介などの簡単な対話ワークを毎回行います。実際にやってみるとわかると思いますが、自分のことを他人に話すというのは意外に難しい。でも繰り返すこと、そして肯定されることで、話すことが楽しくなり、心が開き、頭も活性化します。その状態のまま、課題への取り組みに移るので、生徒たちはスムーズに発信、共有でき、主体的に考えるのです」 河口先生は2017年から産業能率大学の講師も務めているが、この対話の練習は、大学でも毎回行っている。 「1~2分でかまいません。いわばウォーミングアップですね。教師はただ見守るだけですが、生徒たちは必ず自分たちから動きだします」 自己紹介は自己認識につながり、さらに自己開示へのステップにつながる。こうした対話の練習は、探究の時間だけでなく、教科授業やHRなどでも行うと、より効果が上がるという。 「要は参加意識です。その場に参加している自覚があれば、やる気も吸収力も上がります。探究学習はすべての学力の土台になりますから」 ともすれば探究授業は受験に直結しにくいと言われるが、大学の総合型選抜との親和性も高いという。 「教科授業は正解と正解までの考え方を学びますが、探究は、自分の考えたことを自分の言葉で話すスキルが身につくほか、仮説と発表を繰り返す試行錯誤によっても鍛えられます。こうした経験は、大学入試や就職活動の面接などでも必ず役に立つでしょう」 プレゼンの評価については、現場ではあまり言及しないという河口先生。正解かどうか気にするよりも、まずは授業で対話の練習を楽しめるよう、じっくり時間をかけてやっていくそうだ。 「授業は世界の窓口で、何があるかわからないからこそ楽しんでほしい。わかると楽しい、ではなく、楽しいからわかるとなったら最高です」 先生の授業は起立・礼・着席がないのも特徴だ。 「本当はチャイムもなくして、生徒の主体性にまかせたいんですけどね」 (文/篠原麻子) ○河口竜行/和洋国府台女子中学校高等学校 国語科教諭・新教育研究部長 渋谷教育学園渋谷を経て、23年4月から現職。産業能率大学経営学部兼任講師。共編著に『シリーズ 学びとビーイング1~4』(りょうゆう出版)がある。
篠原麻子