京都人のアポなし訪問と細かすぎる「しきたり」は、じつは京風の思いやり?
京都の大晦日といえば「をけら詣り」が有名です。「をけら詣り」とは祇園の八坂神社で大晦日に行われる行事で、境内に「をけら火」という篝火(かがりび)を焚きます。参拝客は縄にこの火をつけて持ち帰り、家でその火を使って雑煮を炊き、元旦に食べるとその一年、無病息災で過ごせると言われています。持って帰る途中に火が消えることのないよう、短い縄をくるくる回しながら歩く光景がテレビなどでもよく紹介されています。 【連載】おとなが楽しむ京都 そして年が明けると元旦から3日までは東山区の六波羅蜜寺では小梅と昆布にお茶を注いだ皇服茶(大福茶)がふるまわれます。この皇服茶は、京都の正月の風物詩であり、一般家庭においても正月には飲まれることが多いようです。
京都では「何の日に何を食べる」ということが決まっている
このように京都にはその季節に応じた様々な行事があるだけではなく、そうした行事および日常生活の中にもかなり細かいしきたりが存在しています。もちろん京都といっても最近は郊外の住宅地が開発されてきていますから、京都市であればどこでもしきたりが重視されているわけではありませんが、上京、中京、下京の三区を中心とした市街中心部にはやはり昔ながらのしきたりは依然として存在しています。 京都以外の人から見れば、こういう「しきたり」は窮屈なだけで形式主義のようにとられるかもしれませんが、「しきたり」の本質は決して形式主義でも面倒なことでもありません。むしろこうしたしきたりの存在は本来「思いやり」にあると言ってもいいのです。それはいったいどういうことなのか、具体的にお話していきましょう。 例えば、京都では「何の日に何を食べる」ということが決められており、それがわりと律儀に守られて続いていることがあります。例えば正月は白味噌と丸餅の入った雑煮を食べることはよく知られていますが、二月の初午の日には伏見稲荷大社ゆかりの秦氏を偲んで「畑菜の辛子和え」を食べます。そして三月雛祭りにはばら寿司としじみや蛤などの貝料理などが食されます。 また、行事には関係なくとも毎月一日には小豆ごはん、八のつく日はあらめと油揚げを炊きます。そして、きわの日(月末の最終日)にはおからを食べるといった具合です。さらには十二支の日によっても食べるものが決まっています。例えば巳寿司、寅こんにゃく、卯豆腐等、それぞれ寅の日、卯の日などによってどんな食材を使うかも決まっているのです。 しかしながらこれはよく考えてみると主婦の手間を省く知恵とも言えます。毎日の献立を考えることは結構大変なことですが、こうして何の日には何を食べるということが決まっていれば、考えなければならない負担は減ります。一見うるさいしきたりのように思えることでも実は主婦の家事労働の一端を軽くするという「思いやり」の気持ちがあると言えるのです。