越後妻有と佐渡島、新潟の2つの芸術祭に注目!アートを介して地域の文化に浸る
■旧ソ連の遊具から着想を得たオブジェ
今回注目すべき作家として、ウクライナ出身でキーウを拠点に活動するニキータ・カダンが挙げられる。 彼が東京電力信濃川発電所連絡水槽に展示したのは2つのオブジェ。宇宙開発を進めていた旧ソ連でよく見られたロケット風の遊具に着想を得ており、溶けかかっているかのようにゆがんでいる。立ち入ることのできない場所に設えられた公園は、手の届かない幸福を表すようでもある。 日本三大薬湯の一つ松之山温泉で知られる松之山の集落では、中﨑透が地域の人々へのインタビューを基にしたインスタレーションを公開。撚糸(ねんし)工場のこと、出稼ぎのこと、松之山温泉のこと、俳句を詠むことなど、この地の歴史やそこに根付く文化を独自の視点で捉え、一つの作品として紡ぎ出している。
■石に刻まれた文字 忘れ得ない記憶
「石には自然への畏怖や祈りが刻まれ、事故や災害、戦争といった忘れ得ない記憶が刻まれる」として越後妻有地域に多く存在する石碑や石仏などを撮影した竹内公太は、2つの映像インスタレーションを発表した。石に刻まれた「水」という字を並べた《水泥棒》からは、土地を開いてきた先人たちの苦労がしのばれる。 また、日清戦争後に建てられた忠魂碑に刻まれた文字を英訳し、それらの言葉が現代社会で発せられる映像と重ねた《戦という泥棒》には、戦争が祈りを搾取してきたこと、それが絶えないことを想起させられる。
■参加できる企画展 だまし絵のような作品を楽しむ
大地の芸術祭の拠点の1つである越後妻有里山現代美術館 MonET(モネ)では、11組のアーティストらによる企画展「モネ船長と87日間の四角い冒険」が繰り広げられている。 中でも、本展のキュレーションも行う原倫太郎+原游による《阿弥陀渡り》は楽しい作品。中央の池には以前からレアンドロ・エルリッヒのだまし絵のような作品があるが、それに同化して見える橋を重ね、鑑賞者がトリックの中に入り込めるようになっている。 大地の芸術祭に足を運ぶ際は、清津峡渓谷トンネルにあるマ・ヤンソン/ MAD アーキテクツの《Tunnel of Light》、イリヤ&エミリア・カバコフの《棚田》、クリスチャン・ボルタンスキー+ジャン・カルマンの《最後の教室》といったこの芸術祭の代表的作品も必見。 また、ジェームズ・タレルの作品《光の館》での宿泊、EAT&ART TAROが手がけた演劇風レストラン「上郷クローブ座レストラン」でのランチといったプログラムもおすすめだ。