「家には簡単に人を招きません」北欧流豊かな住空間のつくり方を家具デザイナーが語る
2006年にピーター・ ボーネンとクリスチャン・ビエの2人がコペンハーゲンで設立したインテリアブランド、ムート。フィンランド語で「新たな視点」を意味する言葉“muutos”から派生したその名が示す通り、北欧のデザイン潮流に新しい波を起こし続けるムートは、誕生からいまや世界を席巻するブランドへと成長しています。 【写真集】北欧発ムートのショップがオープン!デザイナーに聞く北欧流豊かな暮らしとは? そんなムートが、ついに日本初となる旗艦店を東京にオープンしました。創業当時より同社とのコラボレーションを重ねるデザイナーのセシリエ・マンツが、お祝いをかねて来日。新しいショップを一緒にめぐりながら、北欧デザインの魅力について改めて語り合いました。
ムートとの出合い
ムートの旗艦店が登場したのは、東京・外苑前駅のほぼ真上。コペンハーゲン、パリ、ストックホルム、台北に続く、世界で5番目のムート旗艦店となる東京店は、穏やかで心地よい北欧デザインに革新性を付加した、今の時代を象徴するデザインを間近に体感できるスペースとなっています。 創業から10年を経て、2016年にセシリエ・マンツがデザインした「ワークショップチェア」を発表。セシリエ・マンツといえば、フリッツハンセン、フレデシリア、バング&オルフセン、スクルーフなど、名だたる北欧ブランドと協業を重ねてきたデンマークのトップデザイナーです。実績のある彼女は、歴史の浅いブランドながら、物怖じせず、新しい波を起こそうと突き進む様子にムートの思想に賛同。「ワークショップ」シリーズを始め、主要アイテムのデザインを連続的に手掛けています。
昔の台所椅子を、いまのかたちに
セリシエがムートから最初に発表したワークショップはどんな背景から生まれたものなのでしょうか。 「30~40年前のデンマーク家には、どの台所にも“キッチンチェア”と呼ばれる小さな木製の椅子が置かれていました。現代ほど台所が広くなかった時代、調理の合間にちょっと腰掛けるための椅子は、とても小ぶりで素朴なもの。この椅子を現代の文脈で捉えたらどうなるか。そんな思いから、自主プロジェクトのなかで考えていたものが、後の『ワークショップ』シリーズに発展したんです」 装飾性のないシンプルな背と座、四本脚の下に水平方向に走る貫など、部材も最小限に制限。セシリエは無駄な要素を削りながら、台所の片隅にちょこんと置かれていた質素な小椅子を、どんなライフスタイルにもマッチするシンプルで機能的なものに成長させました。あえて特定のスタイルに収まらない、アノニマスな存在の「ワークショップ」はチェアに始まり、後にテーブルやベンチも登場。今やムートの代表的なコレクションとして広く知られています。