米国経済予想外の堅調の背景に移民の急増
移民の大幅増加は永続的ではない
FRBは、移民の増加が労働市場の逼迫(ひっぱく)を緩和する役目を果たし、堅調な成長とインフレ率の低下の両立を可能にしていると考えている。パウエル議長も、2023年の+3.1%という高い成長率は、需要が押し上げたのではなく、移民や労働力人口の増加による供給増を反映したものだと説明している。 移民増加による潜在成長率の上昇が、経済及び需給ギャップに対して中立的な自然利子率の水準を押し上げていることが、高金利のもとでも米国経済がなお安定を維持している背景、との説明も可能だろう。 しかし移民の大幅増加は長く続くものではないだろう。近年の増加は、コロナ問題によって減少したことの反動という面が大きい。他方で、米国内では不法移民だけでなく、合法移民の増加にも警戒する議論が高まっている。11月の大統領選挙でトランプ前大統領が勝利すれば、移民規制はかなり強化されるだろう。 パウエルFRB議長も、移民の大幅増加は「それは永遠に続くものではない」と語り、供給が徐々に弱まっていけば、金融引き締めの効果が「よりはっきりと出てくるだろう」と述べている。 現在、金融市場に広がる米国経済のソフトランディング期待は、移民の流入鈍化をきっかけに揺らいでいく可能性もある。 (参考資料) "The Fed's Challenge: Has It Hit the Brakes Hard Enough? (FRBが悩む「経済ブレーキ」の踏み具合)", Wall Street Journal, March 18, 2024 "Immigration Is Helping the U.S. Edge Out Asia(米経済の対アジア優位、移民急増も一役)" , Wall Street Journal, March 28, 2024 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英