被害者への賠償金は「殺人事件で13.3%、強盗殺人で1.2%、傷害致死で16%」しか支払われていない…なぜ民事判決文は紙切れ同然になってしまっているのか
通り魔殺人のように「過失」がゼロの場合しか「満額」は支給されない
付け加えれば、国からの見舞金とでもいうべき「犯罪被害者等給付金」とは「遺族給付金(320万~2964.5万円)」、「重傷病給付金(上限120万円)」、「障害給付金(18万~3974.4万円)」の3種類があり、被害者の当時の年収などから計算される。 たとえば死亡事件の場合の最高額2964.5万円は「50~54歳で4人以上の家族を養っていく」場合となる。しかし、病やコロナ禍などで事件当時に被害者の収入が落ち込んでいた場合は最低額に近い額が算定されてしまう。額の引き上げと、運用の弾力化を進めることをやめないでいただきたい。 「犯罪白書」(令和3年版)によれば、令和2年度の犯罪被害者等給付金の支給額は8億2509万円であった。家族を殺され収入を失ったり、一生涯働くことができなくなった被害者の現実を考えれば、すずめの涙のようなものなのである。 算定には被害者の「過失割合」も加味される。口論の末に殺害されれば、被害者にも過失があったと見なされ、「満額」は給付されない。 極端にいえば、通り魔殺人事件の被害者のように、「過失」がゼロの場合しか「満額」は支給されない。私は何人もの被害者遺族に額を聞いたが、驚くべき安さであった。ある遺族──家族2人を見知らぬ男に殺害された──は、葬儀をしてクルマを買い換えたらなくなりました、と言っていた。おおよその額がわかろうものだ。 民事裁判で確定した損害賠償金については、加害者が自殺した場合は当然支払うべき主体がいなくなるから、支払いはされなくなる。賠償金を月割りにした場合、最初の数カ月か数年だけ支払い、その後は行方をくらましてしまうことはざらだ。支払いゼロというケースも多い。 私が知る限り、ごく稀に損害賠償金が満額が支払われたのは主に少年事件で、親が資産家で一度に支払うか、裁判が終結した後に弁済計画を立てて──親や本人が──長い時間をかけて支払ったケースである。 しかし、金銭の支払いだけで、言葉による謝罪をともなうことはほとんどない。カネさえ払えば文句はないだろうという態度の加害者や加害者家族を私はたくさん取材してきた。 被害者遺族が社会的に何かを発言していてもそれらを一顧だにしない。私はある加害者の親子に会い、刊行されている被害者遺族の書いた手記を読んだことがあるかと尋ねたことがあるが、関心すらなかった。 毎月、賠償金が振り込まれているかどうかを通帳記入をして確認する遺族の気持ちを、私たちは考えたことがあるだろうか。 水原は、「自分が言うのもなんですが、民事判決文が紙切れ同然となっているというのはやりきれません」と書いてきた。 写真/shutterstock
---------- 藤井誠二(ふじい せいじ) 1965年愛知県生まれ。ノンフィクションライター。少年犯罪について長年にわたって取材・執筆活動をしている。著書に『人を殺してみたかった―愛知県豊川市主婦殺人事件』『少年に奪われた人生―犯罪被害者遺族の闘い』『殺された側の論理―犯罪被害者遺族が望む「罰」と「権利」』『黙秘の壁―名古屋・漫画喫茶女性従業員はなぜ死んだのか』、共著に『死刑のある国ニッポン』(森達也との対談)など多数。 ----------
藤井誠二