小林製薬の紅麹の打撃と、住友ファーマ巨額減損の背後にある「医療保険制度崩壊」の影響のどちらがより深刻な問題か?
新薬メーカーの博打
処方箋医薬メーカーが抱える別の問題は、新薬開発という「大博打」をしなければ、経営を持続できないという点にある。 前記「紅麹よりもワクチンの安全性はどうなっている~パンデミック全体主義について今こそ冷静に考えるべき」2ページ目「ダブルスタンダード」で述べたように、日本では、ひとつの薬ができるまでに、9~17年もの歳月を要する。しかも、その間にかかる費用は約500億円といわれている。さらに、新薬の開発成功率は約3万分の1とも言われ、ほとんどの候補物質は途中の段階で断念されている。 まさに、製薬メーカーに勤務する友人が言うように「新薬開発は大博打」ということだ。また、新薬開発の失敗が何回か続けば、どのような「大製薬会社」でも経営の屋台骨が揺らぐとも言われる。 さらに「新薬の特許期間」という問題も存在する。 特許の存続期間は出願から20年だが、最大で5年間の延長が認められるから最長25年である。結構長いようにも思えるだろう。 しかし、この特許期間というのは「出願日」から計算されるのだが、その後も10~15年程度新薬開発が続くのが通例だ。 その結果、新薬を独占販売できる期間は平均で7年程度しかないとも言われる。
住友ファーマの苦境
しかも、「大原浩の逆説チャンネル<第54回>日本と世界を痛撃するインフレ。いつまで、どこまで? 特別対談:大原浩×有地浩(その3)」で述べたようなインフレ時代にも、薬価は引き下げられる(「薬価改定」と呼ばれるが、基本は引き下げ)のである。 その上、前述の健康保険財政ひっ迫の影響か、2年に一度の改定が「毎年」になった。新薬メーカーにはより厳しい環境になったのだが、それよりも「特許切れ」が新薬メーカーに大きな打撃を与える。 日本経済新聞 4月30日「住友ファーマ、1800億円の減損計上 2024年3月期」と伝えられる。 同社は、昨年2月に売り上げ収益の4割を占めていた統合失調症薬「ラツーダ」の米国での特許が切れ、業績が急速に悪化していた。 もちろん、それはかなり前からわかっていたことなので、「新薬開発」によって準備をしていた。だが、2021年以降に米国で発売し大型化を期待していた3製品「オルゴビクス」、「マイフェンブリー」、「ジェムテサ」の販売低迷によって窮地に追い込まれたのだ。 前述のように、「新薬開発」で(販売面も含めて)失敗すれば、経営の屋台骨が揺らぐ典型だといえよう。 最近は、日本でも後発(ジェネリック)医薬品が普及してきたため、特許切れの後の新薬の販売落ちこみが鋭角になる傾向がある。これも新薬メーカーを苦しめる要因だ。