会議で必要な資料を読んでこない…ハラスメント未満のグレーゾーン「インシビリティ」が離職を招く?
「インシビリティ(Incivility)」とは、礼儀や尊重を欠いた行動や言動を指します。例えば、無視する、話を遮る、皮肉的なコメントをする、感謝を表さないなど、攻撃性は高くないものの不快感を与える言動を指します。職場でのインシビリティは、直接的なハラスメントやいじめと比べ、表面化されず問題提起されづらいため見過ごされがちです。しかし、積み重なることで職場環境や従業員に悪影響を及ぼし、モチベーションや生産性の低下、離職を招きます。
ハラスメント「グレーゾーン」 インシビリティを改善するには?
人事が耳にする退職理由はもっぱら、「新しい挑戦をしたい」などのポジティブなもの。けれど、本当の退職理由は別にあるかもしれません。エン・ジャパンが約1万人を対象に実施した「本当の退職理由」実態調査によると、4割以上が本当の退職理由を職場に伝えていなかったといいます。伝えなかった本当の退職理由のトップは「職場の人間関係が悪い」でした。 職場の小さなギスギスの積み重ねは離職につながります。挨拶をしても返ってこなかったり、質問に対し「そんなことも分からないのか」と馬鹿にしたり。また、会議にまでに読んでおくようにと伝えた資料を読んでこず、チームへの非協力的な姿勢を見せることもインシビリティの一つです。インシビリティに当たる行為を受けた人のうち20%近くが退職したという研究もあります。 昨今、ハラスメントへの意識は高まってきました。2020年にはパワハラ防止法が適用され、2022年には中小企業にも防止措置が義務付けられました。一方、「ハラスメント未満」とも言えるようなインシビリティは認知度の低さからあまり問題視されておらず、グレーゾーンとなっている状態です。 行為者の意図が曖昧であることがインシビリティの特徴。そのため、行為者は「傷つける意図はなかった」「自覚なくやっている」ということがあります。また、インシビリティに当たる行為を受けた人も、他者に対してインシビリティをはたらく傾向があるといいます。「自分も同じような振る舞いをしても許されるだろう」とインシビリティを繰り返し、職場環境の悪化や退職者が出る、という負のスパイラルに陥ってしまうのです。 経営者、人事、管理職といった立場の人たちは、どのように職場環境をマネジメントし、インシビリティを防げるでしょうか。インシビリティの行為者には、性格特性、生育特性、価値観の三つの要因があるといいます。インシビリティを改善してもらうためには、性格や価値観を変えるのではなく、自身の認知に向き合い、行動を改めてもらうアプローチが有効です。 例えば、「職場は仲良しクラブではない」という価値観を持っている人に価値観を変えてもらう必要はなく、自分の認知のくせに気づいてもらい、「話しかけても無視する」といった行為を変えてもらうことをゴールとします。忙しいのなら「5分待ってください」と伝える。不服なことがあるなら言葉にして伝えるなど。人事の介入が難しい場合には、チームでインシビリティ・マネジメント研修を受けることも有効です。 インシビリティに当たる行為の一つひとつは些細なことと見過ごされがちですが、その影響は決して軽視できるものではありません。健全な職場環境をつくるため、ハラスメントと同様、企業は対策を講じる必要があります。