最低でも20km 木星の衛星「エウロパ」表面の氷の厚さを衝突地形から推定
■多重リング盆地から氷の厚さを推定
脇田氏などの研究チームは、この状況を改善するために、エウロパの表面にある「多重リング盆地」と呼ばれる直径100kmほどの地形を参考にシミュレーションを行いました。多重リング盆地は環状の地形が同心円状に幾重にも重なっている地形であり、氷殻を突き破るほどの大規模な天体衝突によって生じたと考えられています。 多重リング盆地ができる条件には氷殻の厚さと硬さが大きく影響すると予想されていますが、硬い物質と柔らかい物質が関与してできる地形をシミュレーションすることは困難です。実際、当初は1つのシミュレーションを実行するのに1か月もかかるほどでしたが、その後の工夫で100通り以上の計算を現実的な時間内に実行できるように改善することができました。
今回の研究では、国立天文台が運用する「計算サーバ」と、天体衝突をシミュレーションする数値衝突計算コード「iSALE」を使用し、エウロパに存在する多重リング盆地を最も再現できる氷殻の厚さや硬さを探りました。 その結果、氷の厚さが最低でも20km無ければ多重リング盆地は生成されないことが示されました。また、氷は硬くて壊れにくい層と脆くて壊れやすい層で構成されており、脆い部分があまりにも壊れやすいと多重リング盆地は生成されないことも合わせて分かりました。このような氷殻の構造は内部海が存在するという推定とも一致するため、多重リング盆地は間接的に内部海が存在することを示しています。 エウロパの多重リング盆地がいつ生成されたのかは分かっておらず、多重リング盆地の形成当時と現代では氷殻の厚さが異なっている可能性もあります。ただし、エウロパの表面は常に更新され続けており、クレーターは2000万年から2億年の時間が経つと消えてしまうと考えられています。これは地質学的にはかなり短い時間であり、今回推定された多重リング盆地形成当時の氷殻の厚さが、そのまま現代のエウロパにも当てはまる可能性が高いことを示しています。