稲垣吾郎「誰しも自分のなかで大切な曲がある」 音楽との向き合い方と“秘密のお遊び”を語る
稲垣吾郎が8月22日、実に5年8カ月ぶりとなる新曲「SEASONS」を配信リリースした。近年は俳優として舞台や映画をベースに活動している稲垣。とはいえ、音楽から遠ざかったイメージはない。それは2019年から「上質な音楽を、じっくり味わう。」をコンセプトにしたラジオ『THE TRAD』(TOKYO FM)にて月曜・火曜パーソナリティを務めていることも大きく影響しているように思う。 【写真】50歳を迎えた稲垣吾郎 「SEASONS」は、ラジオで音楽談義に花を咲かせるなかで出会ったアーティストのひとり、TENDREによる書き下ろしだ。一体どのようにしてこの曲が生まれたのか。そして、稲垣が感じている「SEASONS」の魅力、さらにはこっそりと楽しんでいるという“秘密のお遊び”について――。今、稲垣吾郎は音楽とどのように向き合い、楽しんでいるのか。生放送直前のラジオブース横でインタビューに答えてくれた。
TENDREがイメージする「稲垣吾郎」
――前作の「SUZUNARI」以来、5年8カ月ぶりの新曲ソロリリースとなりましたが、どんなお気持ちですか? 稲垣吾郎(以下、稲垣):「5年」っていうとすごく空いている感じがして、月日が流れるのは本当に早いなと思ってるんですけども。ただ、自分で音楽を発信していくというのは、何十年もやってきたことなので、やっぱり久しぶりに楽しいなと思いますね。 ――この5年のあいだにも「新曲を……」というお話はたびたびあったのでしょうか? 稲垣:そうですね。草彅(剛)さんと香取(慎吾)さんと新しい地図を広げて、ファンの方と実際に会って一緒の時間を過ごすうえで、歌は欠かすことのできない大切なものなので。「新しい歌がほしいな」という話は常々ありましたね。でも、今の僕はひとりで積極的に音楽活動をしていくスタンスでもなかったので、何が何でも新曲を出さなくちゃいけない! ともならなくて。 そんな時に『THE TRAD』にゲストで来てくださったTENDREさんの音楽を知ったんです。TENDREさんって、どちらかというと少し力を抜いて歌う方じゃないですか。僕も声を張り上げて歌うというよりもそっちのタイプなので、すごく相性がいいんじゃないかなって。個人的にもすごく好きになって、そういうご縁から今回書き下ろしをお願いすることになりました。 ――TENDREさんの音楽にどんな魅力を感じましたか? 稲垣:僕は音楽の専門家でもないので、あくまで感覚的な話なんですけど、彼の音楽は引き算されているというか、なんかすごく研ぎ澄まされた音楽だなと感じています。やりすぎていないところが好きですね。ともすれば、何事も作り込もうとすると、どんどん重ねていってしまうところがあるじゃないですか。その点、TENDREさんの音楽は、むしろスッキリとしたオシャレさがあるなと。 ――たしかに。丁寧に施されたナチュラルメイクみたいな感じですよね。 稲垣:そうそう! 本当に薄付きなのにすごく洗練されている美しさ! 僕のなかでのTENDREさんの音楽ってそういうイメージだったんです。人間的としても、とても魅力的な方なんですよ。ライブも急にダンサーさんが出てきたりしてすごく面白いんです。だからこそ、そんな彼の心や脳の中身をもっと見ていきたいっていう思いが強くあって……。きっともうファンなんでしょうね(笑)。なので、事前に「こういう曲が好きです」ということはお伝えしましたが、あとはもうお任せで。TENDREさんがイメージする“僕”で作ってもらいました。 ――では「SEASONS」に関しては、細かな要望は出していらっしゃらないんですね。 稲垣:ええ。今回の曲の話だけはなく、基本的にはどんなお仕事に関してもそういうスタンスでやっていきたいと思っているんです。たとえば、今日の撮影もカメラマンさんが僕を撮るために2本のレンズを持ってきてくれたじゃないですか。それを見て、「ああ、1本はオールドレンズ風にエモく撮っていこうと思ってくれたんだな……」とかを考えるのって面白いんですよね。全部こっちが「ああしてほしい、こうしてほしい」と言うよりも、どういうふうに僕をよくしてくれるのかなって見ていきたいなっていう。 きっとそれができるのも、僕のこだわりとかポリシーにはもう確固たるものがあって、それが揺るがないからかもしれないですね。カメラマンさんだったり、ディレクターさんだったり、アーティストさんだったり……僕を作ってくださるいろいろなクリエイターの方が提示してくれるものに対して、柔軟に取り入れても僕の個性はたぶん消えないと思うから。 ――実際に上がってきた「SEASONS」を聴いた時はいかがでしたか? 稲垣:TENDREさんに本当にお願いしてよかったなって思いました。そのうえで、僕の好みとして「ここはもうちょっとこういう楽器がほしい」といったリクエストを少しだけさせてもらったんです。僕は専門的なことはわからないので、本当に抽象的なイメージでお伝えしたんですが、それでもちゃんと的確に伝わって嬉しかったですね。ちゃんとお礼を言いたいんですが、実はまだ(完成してからは)お会いできていなくて……。なので、今度ぜひラジオにゲストとしてまた来ていただいて、曲についてもいろいろとお話ししたいですね。 ――ファンミーティングにて初披露となりましたが、反響はいかがでしたか? 稲垣:うーん……わかんない(笑)。いや、同じタイミングでお披露目されたSingTuyo(草彅と香取のユニットの新曲)「眩しい未来」と比べると、サラ~ッとナチュラルな感じでの初披露だった気がして。でも、飛び跳ねてノるような楽曲でもないし、かといって座って聴き込むバラードでもないし……。そう考えると新しい地図のファンミーティングって、3人の個性がバランスいいのかもしれないよね。香取さんのアップテンポなダンスミュージックで盛り上がって、草彅さんの弾き語りでドキドキして……あ、ドキドキは“いい意味”でね、“いい意味”で(笑)! 実際、ギター1本で武道館で弾き語りしろって言われたらやっぱり僕にはできないですから。本当に立派ですよ。そう考えてみると、僕のソロは、ファンミーティングのセットリストのなかでホッと一息つく、リラックスタイムなのかもしれないですね。お口直し的な感じでいいのかなって。 個人的には、この曲は不思議と聴けば聴くほどよくなってくるんですよね。もちろん、そういう曲っていっぱいあるし、聴いてもらう人がいて同時に育っていくものでもあるんですけど、「SEASONS」は“育っていく”というよりも、聴けば聴くほどストレートにいい曲だなと思います。今まで、何百曲歌ってきた僕のなかでも珍しいパターンです。 ――どんなシチュエーションで聴かれていらっしゃるんですか? 稲垣:僕は車のなかが多いかな。ガッツリ没入してその音楽の世界に浸っていくというよりも、BGMとして流すような感じですね。「ちょっとリラックスしたいな」っていう時にすごく似合う曲。尺もいいよね、ちょっと短めで。だから、サラ~ッと聴けるのは当然なのかもしれない。なんか欲がないというか、品がいいんですよ。だから最初はちょっと薄味に感じちゃうかもしれないけど、だんだん旨味がわかってくる。これがTENDREさんマジックなのかなって思いながら聴いています。