ハリス氏が経済政策を発表:物価の安定と中間層支援をターゲットに
4つの具体策
以下では、ハリス氏が示した経済政策を、1)価格安定策、2)住宅促進策、3)児童・低所得層税控除、4)医療費支援 の4つの分野についてそれぞれ詳細を見てみたい。 1)価格安定策 ハリス氏は、大統領就任後の最初の100日で物価を引き下げると宣言した。食品企業による不当な値段のつり上げを禁止する連邦法の成立を支持し、アルゴリズムを使った不当な賃料「調整」を禁止する連邦法の成立を促す。価格競争を弱める可能性のある企業の合併・買収にも監視の目を強める。 ハリス氏は一部の大企業による利益重視の姿勢に物価高騰の原因があるとし、特に大手食料品店チェーンは過去20年で最高の収益を生み出していると批判した。企業が「過大な利益」を出せないよう規則を設け、従わない企業に罰則を与える権限を米連邦取引委員会(FTC)に与える方針を示している。 アメリカではすでに多くの州が便乗値上げ禁止の制度を設けており、ハリケーンなどの緊急時に導入される。ただし、何を不当な値段つり上げと規定するのか難しい面もある。 2)住宅促進策 大統領の任期の4年間で300万戸の住宅建設を目指す。バイデン大統領が掲げた200万戸から拡大する。また、若い世帯が最初に購入する安価な「スターター住宅」の建設会社を税優遇で支援し、住宅開発支援などに充てる基金を400億ドル(約5兆9,000億円)に倍増する。 初めて持ち家を購入する人に、頭金2万5千ドル(約370万円)を支給する。これは4年間で推定400万世帯が対象になり得ると、ハリス陣営は試算している。 他方で、住宅を大量に購入する投資家への税制優遇を撤廃する法案の成立も目指す。ハリス氏は「何百もの住宅を購入し、極端に高い値段で貸し出している企業がある」、「アメリカン・ドリームを阻害する」と批判した。 3)児童・低所得層税控除 最大3,600ドルの児童税額控除の復活に加えて、新しく子供が生まれた家庭へ1年間で最大6,000ドル(約89万円)の税控除を行う。パンデミックの渦中で連邦議会が一時的に子供1人当たり最大3,600ドルの税控除を実施したが、その後は延長されなかった。 また低所得層の所得税控除を最大1,500ドルとする。ハリス氏は、これにより「1億人以上の税負担が軽減される」と強調した。 4)医療費支援 糖尿病治療薬インスリンの月額薬価を上限35ドル(約5,200円)に定めるほか、医療費支払いのための借金を帳消しにする。バイデン政権が進めてきた薬価引き下げも継続する。 (参考資料) 「新築住宅促進、食品の便乗値上げ規制……ハリス副大統領、経済公約示す」、2024年8月17日、BBC News 「ハリス氏、中間層支援鮮明 安価な住宅建設に税優遇 食品価格つり上げ「禁止法」(米大統領選2024)」、2024年8月18日、日本経済新聞 「ハリス氏、南部の激戦州で経済公約 16年ぶり奪還へ布石」、2024年8月17日、日本経済新聞電子版 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英