親しくない相手に「父です」と棺の写真を見せる、葬儀の様子を送ってくる…コロナやスマホで変わった故人への感覚
◆LINEで亡くなるまでを報告 悲しみを共有したいという思いは、無意識でも起こるものだ。 コロナ禍の時、友人から電話があり、「従弟が常識はずれで困った」と言うのだ。 友人は喘息があり、コロナになったら大変だと思い、外出を控えていた。ところが、親しくない従弟から電話があり、父親の自宅介護をしていて体調が思わしくなく、妹に会いたがっているから来てくれというのである。妹というのは私の友人の母親で、既に亡くなっており、その娘でもよいと従弟は思っているのだ。 友人は「叔父さんの家は遠いし、コロナが怖いので会いにいけない」と断った。 すると従弟は「亡くなったら知らせたいから、LINEを繋げたい」と言われた。 友人の嘆きの電話は、ここからが本題だった。 「LINEのメールを教えたら、連日、弱っていく叔父さんの画像が送られてきたの。親しい叔父さんなら知りたいけど、親しくないので参った。送らないでと言うのも冷たいみたいで。老衰で亡くなったところで画像は終わり。コロナ感染が怖いから葬儀に出席しなかったら、今度は詳細な葬儀の様子が動画できたのよ。その詳細さに参った」 驚きの連続で、叔父の死を悼む気持ちが薄れたそうである。
◆葬儀の模様を動画配信 私は友人にぜひ来てほしいと言われ、一度もお会いしたことのない父親の一日葬に出席したことがある。一日葬は通夜がなく、普通は読経、祭壇の前でお焼香、故人とのお別れ、火葬場、精進落とし(食事で宗派によって言い方は異なる)となる。 火葬場に隣接した葬儀場だったが、僧侶を呼ばず、お焼香をした後に、父親が趣味で作った陶器がいくつか置いてあったのを眺めて、お清めの塩をいだだき、火葬場にいく親族以外は帰された。その後、友人から動画が送られてきた。約30人の参列者のお焼香を後ろから撮影したもので、一人スタイルの悪い女性が登場し、私だったのがっかりした。 親しい人の葬儀に参列できなかった場合、動画で葬儀の模様が送られてくるのは良いが、私は参列したので必要がなかった。 コロナ禍から直葬(葬儀はせずに火葬にする)も珍しいことではなくなった。 私の父は、「葬儀無用、戒名無用、僧侶を呼ぶな」と言っていたので、平成10年に亡くなった時は直葬で、母と兄と私と葬儀社の社長だけで見送った。なぜ葬儀社の社長と書いたかというと、骨を箸で拾う時は二人1組でするが、母と兄が拾った後、私は一人だったので社長と拾ったからだ。当時は直葬という言葉も知らない人がいて、親戚以外にもいろいろ説明しなくてはならなかった。母も兄も直葬にしてくれと言われていのでそうした。 私は家族がいないから、希望しなくても直葬だろう。 しかし、私は死んでからが忙しいのだ。 年齢を重ねたら、悪い人と思っていた人が結果的に良い人だったり、その逆だつたりが分かってきた。もしあの世というものがあり、そこに誤解していた人がいたら謝りたい。 そして、父に「生きている時に都合の悪いことは整理して、日記は捨てておけ」と言いたい。私は今頃、父の嘘だらけの人生を知り、父の写真に手をあわせるのも嫌になっているのだ。
しろぼしマーサ