新・領域戦―サイバー戦どう備える(2) 脅威の変化「国家の戦い」の手段に
サイバー領域に適用する国際法についても多くの議論がありますが、国際法が基本的に慣習法であるため、歴史の浅いサイバー領域での争いは国際司法裁判所等における十分な判例の積み上げがないので依然として未成熟の感が否めません。 不正なアクセス、データの搾取・改ざん等情報資産の防護に関する法的な取り締まりについては、商業取引、知的財産の保護、金融資産の保護等に関わる犯罪取り締まりを目的に、各国で国内法が整備され、国際的には「サイバー犯罪条約」(中露等が不参加)が存在します。しかし、国家間のサイバー戦を規律する国際法、テロリスト等の行うサイバー攻撃に対する国際法については確定的なものが存在しないのが現状です。 エストニアのタリン(地名)で、NATOサイバー防衛センターを中心に検討が進み「タリン・マニュアル」というものが2013年に発出されました。まだ条約としての地位はなく、また反NATOのロシア等の参加は難しいと見られるので今後も地道な協議と対話が必要です。
国際法としての合意が難しくても、サイバー戦の結果としての災禍を無差別・非人道的なものとならないような国家間の規範の合意を目指す動きがあります。例えば、平時において、電気・水道等の生活・人命に直結するシステムへの攻撃、地上交通・航空機等の事故による大規模な被害が想定されるシステムへの攻撃等は、人道的な見地から禁止するという規範であれば合意できるのではないかということです。 規範等の議論を進めている代表的なものとして、GCCS(Global Conference on CyberSpace)があり、国連の政府専門家会合(GEE)等への提言を準備する重要なプロセスとなっています。 国際規範の合意で残る重要な問題が、テロリスト等の国家主体以外のグループの活動の規制です。中露を含む主要国は対テロ活動に苦慮しているのが現状であり、情報提供を含めサイバー攻撃を行うテロリストを孤立させるために、ある程度の合意が可能であると思われます。 各国のサイバー軍・サイバー部隊(サイバー軍等)が秩序ある側において管理できるようになると、この孤立化の進捗が期待できます。また、サイバー軍等が通常戦力の一部として定義できれば、国際法の適用についての議論も進捗が期待できます。