新・領域戦―サイバー戦どう備える(2) 脅威の変化「国家の戦い」の手段に
以上のような技術的な変化の他に、攻撃者についても変化があります。従来は個人またはある悪意を持った組織集団が中心でした。現在の「攻撃主体(アクター)」は、「国家主体」、テロ組織等を含む「非国家主体」、及び犯罪者・ハクティビスト(Hactivist:Hacker + Activistの造語)を含む「個人(小グループ)」の三つのグループを一般的な分類としています。 「国家主体は国益の追求目的」から、「テロリスト及びハクティビストは、宗教、信条等の目的」から、そして「犯罪者はいたずらや経済目的」からサイバー領域における攻撃を仕掛けてきます。 サイバー攻撃の中には、相手国家の内部情報等の搾取を周到に計画準備して行うような、「国家の関与」を疑うような攻撃が多くあります。さらに、重要インフラへの攻撃を準備するレベルとなると、明らかに技術レベルの高い組織力のある集団が、ある政治的な意図をもって作為することとなるので、国としては、国家の関与がある場合における対応を準備する必要があります。 また、多様な主体がサイバー空間を含むCPS全体に対して攻撃を企図する場合を想定すると、ケーブル・有線系の切断や盗聴・欺瞞、無線系の通信妨害、盗聴、欺瞞、そしてインターネット・サービスを提供するシステムでは施設の破壊・ハードウェアの破壊・盗聴・設定情報の改ざん等が具体的な攻撃手段・要領となります。 したがって、前回述べたように、サイバー空間、物理的な通信網、そしてインターネットに依存する重要インフラ等の物理的なシステムも防護すべき対象となり、これらを加えて「サイバー戦の領域」として捉える必要があります。
サイバー戦の領域における攻撃の効果には、「物理的な(システム)効果」と「心理的な(政治的)効果」の二つがあります。特に、安全保障レベルの視点から見ると、この心理的な(政治的)効果が重要な要素となると考えています。 物理的な効果は、システムの妨害、情報の改ざん・搾取等システムそのものに効果が表れるものがあります。また、システムが支援している物理的な装置・重要インフラの制御系等のフィジカルなシステムを攻撃して、それらの活動を妨害するか、またはシステムの妨害等によって人的・物的被害を発生させる場合も物理的な効果として考えます。 心理的な(政治的)効果の獲得には、直接的なアプローチと間接的なアプローチの二つの要領があります。一つ目の直接的アプローチは、物理的な効果がそのまま心理的な効果を生む要領です。例えば、交通管制の管理・制御を攻撃して物理的な被害を発生させ、同時に心理的なパニックを惹起させるようなことです。 間接的アプローチは、代理目標等を攻撃し、その結果としてより大きな攻撃の可能性を予想させ、あるいは大規模な被害を想起させることにより、本来の政治目的を達成するようなことです。現代の紛争では後者の間接的アプローチが主流となっており、サイバー領域の戦いに合わせて心理戦・情報戦等の機能が不可欠な要素なっています。