新たなギターヒーロー、MJ Lendermanが語る「Z世代のニール・ヤング」が生まれるまで
葛藤の先に見つけた新境地
楽曲「Joker Lips」には、アルバムの中で最も引用される可能性の高い歌詞がある。「カルーア・シューター / 飲酒運転のスクーター(Kahlúa shooter / DUI scooter)」という一節だが、「売ります:赤ちゃん用シューズ、未使用(For sale: baby shoes, never worn,)」に匹敵する見事なショートショート的表現で、しかも2語分短い。レンダーマンの書く曲は、このようにユニークな婉曲表現が特徴的だ。彼は、人や情景を巧みな言い回しとカルチャー的なバックグラウンドを使って描写することで、聴く者を魅了し、時には笑わせる。しかし最も印象に残るのは、言葉では表現されない心の痛みだ。 「彼の自然で何気ない表現が好きだ。それから彼の書く歌詞は、とても自然な会話のようだ」と、ドライヴ・バイ・トラッカーズのパターソン・フードは言う。ドライヴ・バイ・トラッカーズは、レンダーマンのお気に入りバンドのひとつでもある。「言葉での説明抜きにストーリーを語る手法も好きだ」とフードは言う。「脳が勝手に空白部分を埋めるのに必要十分な情報だけを、彼は与えてくれる。レンダーマンは正に、俺の好みにピッタリ合っている」。 レンダーマンは、ギターを抱えてボーッとテレビを見ている時に、素晴らしいアイディアが浮かぶという。例えば『Manning Fireworks』向けに最初に書いた「Rudolph」のエネルギッシュなギター・リフは、コメディアンのアーティ・ラングを描いたドキュメンタリーをYouTubeで観ている時に生まれた。2023年にシングルとしてリリースされた同曲には、破壊されたクリスマス飾り、ヘッドライトを消して疾走するディズニー・ピクサー映画のキャラクター、募る恋心とカトリック的な罪悪感の間の葛藤など、レンダーマンらしさが全て凝縮されている。 レンダーマンが『Manning Fireworks』のレコーディングを始めた2022年12月の時点で、全ての楽曲が揃っていた訳ではない。実は、それまでの数年間、彼はほとんど曲を書いていなかった。2022年春にリリースされたアルバム『Boat Songs』も、2020年にレコーディングした作品だ。こちらは、音楽作りに集中せざるを得なかったパンデミック時期の産物と言える。コロナ禍が明けると、レンダーマンは再びツアーの毎日で、曲作りに割く時間などほとんど取れなかった。『Manning Fireworks』のレコーディング・セッションは、アシュビルにあるDrop of Sunスタジオで行われた。忙しいレンダーマンのスケジュールの合間を縫って、3~5日単位でスタジオ入りしながら、結局2023年までかかった。 「(スタジオは)数カ月先まで押さえられていた」と彼は振り返る。「スタジオ入りするまでには何かしら形になるだろう、と楽観していた」。 レンダーマンをよく知る人は、彼の人間離れした才能を称賛する。「彼の頭の中には常に、曲に盛り込みたいアイディアがある」と、幼馴染でコラボレーターでもあるコリン・ミラーは証言する。「それが初めからビジョンとして頭の中に浮かんでいるところが凄いのさ」。 「ゴールを目指す彼のやり方を見ているのは、本当に面白い。彼の下す決断はいちいち的確で、本当に凄いと思う」とDrop of Sunスタジオの共同創設者でレンダーマンの共同プロデューサーも務めるアレックス・ファーラーは言う。「行き詰まった時でも、試してみる価値のあるものとそうでないものを瞬時に判断できる。特に若いアーティストが、生まれつき持っている類の才能ではない」。 スタジオでのレンダーマンは、「約束は控えめに、結果は大きく」出す傾向がある、と彼をよく知るマネージャーのサットンは証言する。「彼は“2、3曲作ろうか”と言って、結局5曲送ってくるような人間だ」。 ところが、『Manning Fireworks』の制作は一筋縄では行かなかった。レンダーマン自身、曲作りを「学び直す」必要があるとまで感じた。「曲作りの現場への復帰は、なかなか難しかった」と彼は言う。「自信を失いかけていたが、同時に新作に対する人々からの期待も感じていた」。 アルバム制作の半ばを過ぎた頃にようやく、納得の行く方向性が見えたという。よりハードによりスピードアップしたいとはやる気持ちを抑え、逆にいろいろ省いて削っていった。さらに「Manning Fireworks」「Rip Torn」「You Don’t Know the Shape I’m In」のように、アコースティック楽器も積極的に導入した。「大きなターニングポイントだった」と彼は言う。 「ジェイク(レンダーマン)といえば、ギター・アンプのボリュームを上げてソロを弾きまくるイメージがある」と共同プロデューサーのファーラーは言う。「しかし今回は、彼の音楽にとって全く新しい試みを目撃できた」。 ウェンズデイのカーリー・ハーツマンは、今回のアルバム制作過程で、延々とまとまらずにフラストレーションを溜めるレンダーマンの姿を目撃している。「アルバムを作っている時は、それだけに没頭したいものよね」と彼女は、数週間後に行った電話インタビューで語った。「結局のところ、彼は駄作を書けないということ。スケジュールやレコーディング方法の制約があって、それで本当にベストを尽くせているのか、彼は迷っていた。でも実は、時間的な制限があった方が、彼は力を発揮できるの。だって彼には、あふれる才能があるから」。