<夜間の無人書籍販売>が好調!広がりを見せる「MUJIN書店システム」は本屋さんにとっての光となるのか
◆無人店舗だから売れる本もある? 清水:好調なのであれば、今後はさらに広げていく、ということ? 大塚:あくまで23年度は実験として捉えていましたが、それで一定の成果が出たので、24年度から対応店舗をさらに増やしつつ、取引先の本屋さんにも提案していこうと考えています。 清水:売り上げが増える、といったポジティブな話がなかなか出てこない連載なので、なんだかうれしいな。衰退する文明を見届けるような企画になりつつあったので…。(苦笑)ちなみに無人だからこそ売れる本もあるんでしょうか? 大塚:無人だから、有人だから、というより、そもそも日中と夜間で書店のお客さんはガラッと変わります。たとえば午前中だと、年配の方と女性が多い。夜になると仕事帰りのビジネスマンの来客が増えます。なので、夜間の無人営業ではビジネス書が目立って売れていますね。 清水:それはいいな! これまでビジネス系の本を刊行してきた僕に、まわりまわって恩恵が。風が吹けば桶屋が儲かる……。エッチな本を深夜に買いにくる人なども、実は寄与していたり? 大塚:むしろ2店舗に、成人しか買えない本は置いていません。昼と夜で変えているのでもなく、もとから取り扱いしていないのです。ちなみに有人で24時間経営をしていて、大塚駅前の繁華街にある山下書店大塚店は、夜にそういった本の売り上げが高い傾向にあります。なので、夜間にそういった本の売り上げが伸びる可能性があるのは分かっているのですが、無人である以上、人の目が届きにくいことで生まれるリスクも考えなければいけない。
◆「家賃」と「人件費」 清水:そもそも今、街場の本屋さんでは、紙の本でちゃんと儲けが出ているのでしょうか? 僕自身、たくさん本を読まなければならない事情もあって、紙より電子で買う機会が増えている。でも出す側の立場で考えると、電子書籍はそこまでまだ売れてはいない。電子版が売れるには、まず紙の本で手に取ってもらえることが必要…という、パラドキシカルな状況に陥っていると感じています。 大塚:よく言われることですが、書店経営のハードルとは「家賃」と「人件費」。でも家賃は削りようがない。だから、人件費を削りに削って、書店員さんが食べられないような状況まで追い込まれた、というのが現在です。そんな厳しい状況の中であらためて考えれば、家賃を払っている以上、店舗そのものは、1日中使えるわけです。それで今まで閉まっていた時間帯で売り上げが発生するなら、それはやはり一つのチャンスですよね。 編集:初回に取材させていただいた双子のライオン堂さんも、二つのハードルについて触れていました。それを乗り越えるために、店舗となるマンションの一室をローンで購入し、書店営業以外に収入源を作った話をされていましたし、よく理解できます。さらに無人販売の時間を増やすことで人件費をさらに削る、という方向性もありうるのでしょうか? 大塚:もちろんそうした対策が有効なお店もあるかもしれませんが、我々がまず目指しているのは「今ある街の書店の経営を、この先もいかに成り立たせるか」ということ。そのためにも今のお客さんが離れるようなことはできるだけ避けつつ、夜間に新しい売り上げを獲得できる方法を提案したい。もし無人販売主体の店舗を作るなら、はじめから「そういう(=無人)お店です」という共通認識やコンセプトを打ち出して、ということになるでしょうね。 編集:私が住んでいる豊島区に、住民や企業から募ったアイデアをもとに事業化を進める「区民による事業提案制度」が昨年設けられまして。実は「無人本屋さんを街角につくったらどうか」と書いて応募したんですよ。 清水:え、この連載と関係なく? 編集:完全にプライベートです。(笑)これまでの取材を通じて知ったことでもありますが、街に本屋さんがあることで、周辺の雰囲気や治安が良くなったりする。一方で、うちの周囲の商店街はシャッター通りになっていますし、試す可能性はあると思って。 大塚:ショッピングモールが開店するときも、いいお客さんが付きやすいから「書店に入ってほしい」と、家賃含めて優遇されることが多いと聞きます。
【関連記事】
- 編集者と出版社の意味が問われる時代にどう「本」を売る?「PASSAGE by ALL REVIEWS」が切り拓く書店の戦い方 清水亮【IT】×由井緑郎【本屋】対談
- ネットに情報が溢れる中、どうやって「この本屋で買いたい」と思わせる?「PASSAGE by ALL REVIEWS」が切り拓く書店の戦い方 清水亮【IT】×由井緑郎【本屋】対談
- とにかくAmazon・メルカリから「距離」を置く。棚貸し書店「PASSAGE by ALL REVIEWS」が切り拓く新しい戦い方とは? 清水亮【IT】×由井緑郎【本屋】対談
- 「このままだと本屋さんが無くなりそうだけど、できることは本当にもう無いの?」清水亮【IT】×竹田信弥【書店店長】対談
- 失われつつある街の本屋さんにようやく見えた光とは?「本を買う」以外の方法で「書店を支える」ということ 清水亮【IT】×竹田信弥【本屋】対談