【GQ読書案内】暮らしや文化、社会を写し出すキッチンを考える──台所にまつわる3冊
編集者で、書店の選書担当としても活動する贄川雪さんが、月に一度、GQ読者におすすめの本を紹介。今月は「台所の本」がテーマ。 【写真を見る】台所にまつわる3冊をチェック!
昔から食文化や家庭料理、調理にまつわる“台所の本”が好きで、見つけるとすぐ手に取ってしまいます。今月はその中から、最近読んだ3冊をご紹介。台所とその設備は、個々の暮らしや地域文化だけでなく、時代や社会状況までをも写し出す。本当に読み飽きることのないテーマだと思います。
日本のキッチンはなぜ使いにくいのか
阿古真理『日本の台所とキッチン一〇〇年物語 「理想のキッチン」を求めて』(平凡社) 著者の阿古真理さんは、これまでに『小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代』(新潮新書)、『日本外食全史』や『家事は大変ってきづきましたか?』(いずれも亜紀書房)など、生活史や食文化をテーマにした興味深い著作を何冊も執筆している。最新著が、この『日本の台所とキッチン一〇〇年物語』だ。 本書は、都内へのアクセスがよい地域では「まっとうで使いやすいキッチン」のあるファミリー向け賃貸住宅が見つからなかった、という阿古さんの部屋探しの実体験をきっかけに構想された。キッチンとは人の命と暮らしを守る場所であるはずなのに、なぜ令和の今も庶民には、狭くて使いづらい台所ばかりなのか。「令和の台所改善運動」を実行すべく、日本の台所の100年の変遷と、その背後にある日本社会のありようをひもといていく。 安価で美味しい外食や惣菜が充実し、部屋にキッチンを必要としない人も増えているだろう。一人分の食事を調理するのはむずかしいし非効率だ、という単身者も多いかもしれない。しかし一方で、SNSを見ていると、節約のための自炊もあれば、バズっている料理を作ってみたという趣味の投稿もたくさんある。料理への向き合い方が自由であるように、住まい方やキッチンもバリエーション豊かな選択肢があってほしい。使いやすいキッチンを望むことは、決して贅沢ではない。それは大切な運動であると、あらためて気づかされた。