7月豪雨で最上川がはん濫 繰り返される水害に“集団移転”を決断した戸沢村蔵岡地区「きっと取り戻す」【山形発】
2024年も山形県内では、さまざまな出来事があった。「ことし報じたニュースの今」をシリーズでお伝えする。 過去最大の被害があった「7月豪雨」。中でも、大規模な水害が発生し県内最多250人が避難した戸沢村では、繰り返される水害に住民たちが“大きな決断”を下した1年となった。 【画像を見る】7月豪雨による大規模水害で流されたパトカー
全国で初 一日に2度の大雨特別警報
7月25日、全国で初めて一日に2度の「大雨特別警報」が発表され、各地で観測史上最大の雨が降った。 新庄市では、36時間で平年の7月・ひと月分の2倍近い雨が一気に降り、犠牲者も出た。 新庄市本合海では、はん濫した川の流れが市道に押し寄せ、通報を受け救助に向かったパトカーが流されて20代の警察官2人が亡くなった。 パトカーが見つかった現場では、ほかに白い乗用車3台も見つかった。 川のように見えている場所は田んぼだ。奥に見える土手と山の間に新田川が流れていて、その川があふれて冠水地帯ができたとみられている。 さらに酒田市でも、80代の女性が川に流され死亡。大雨で、3人の命が奪われた。 被害総額は1078億円、住宅被害も2556棟に上り、過去最悪の豪雨災害となった。 戸沢村蔵岡地区では、そばを流れる最上川がはん濫。集落が水にのまれ、取り残された住民がヘリコプターで救助された。 7月27日、戸沢村蔵岡地区を訪れると、農業用ハウスとみられるものがひっくり返り、また道路にはタンクのようなものが転がっていた。 あれから5カ月。繰り返される水害に住民たちは、ある決断を下した。
信頼していた堤防を越えてはん濫
戸沢村蔵岡地区で農業法人を営む中村健一さん(54)も、大雨で自宅や農業機械のほとんどが水に浸かった。それでも何とか、ことしの秋もコメの収穫を終えた。 大雨の後、新庄市内のみなし仮設アパートに引っ越した中村さん。普段は、比較的被害が少なかった自宅隣の息子夫婦の家を修理して、1人で生活している。中村さんは「仕事でやらなければならないことが多い。ここに泊まりながら、農協も役場もここから行った方が近いので」と話す。 隣にある自宅は、今も窓や扉はなく基礎も丸見え。とても住める状態ではない。そんな自宅を見た中村さんは、「なんかさみしくなったな」とこぼした。 蔵岡地区は、過去にもたびたび水害に悩まされてきた。中村さんの人生で、自宅は「4回」も浸水被害を受けている。 このため県は2023年、水害対策の“切り札”として、約14億円をかけて「輪中堤」を完成させた。 これは、蔵岡の集落を高い堤防でぐるりと囲み水の侵入を防ぐものだ。7月の大雨で、輪中堤自体は決壊することはなかった。しかし今回は、最上川の本流の水があふれ、元々あった国道47号の堤防を越えて集落をのみ込んだ。本流のはん濫は「輪中堤」の想定外で、結果的に地区は守られなかった。 中村さんは「信頼していた47号線の堤防、あれを越水してきた。全然想像していなかったこと。もし残っていたらどうなったのかな、命の危険を感じるからこそ避難(移転)を考える」と語った。