技術職の業界に目をつけた米プライベートエクイティ、2022年以降約800社買収
プライベートエクイティ(PE)ファンドが暖房・換気・空調(HVAC)や配管、電気などの修理・工事を行う会社を買収・統合のターゲットにする傾向が近年強まっている。米紙ウォールストリート・ジャーナルは金融情報サービスPitchBook(ピッチブック)のデータを引用して、PEファンドが2022年以降、こうした業界で800社近くを買収したと報じている。 このようなPEによる投資の波は全米で新たな富裕層を生み出し、技術職の魅力をかなり高めている。この分野の技術職は今や、安定した職業としてだけでなく、高い起業精神を持つ人々の出発点としても注目されている。 米学生情報研究センターによると、職業訓練に特化したコミュニティ・カレッジ(公立の短期大学)の入学者数は2022年から2023年にかけて16%増加した。HVACの修理・設置などを行う業界を含む分野では、これらの業界の職を目指す若者が大幅に増加している。 さらに、PEファンドの買収意欲の高まりはこの業界の経営に関する状況を根本的に変えつつある。これまでは、技術職の業界の会社は先祖から代々引き継がれたり、長年勤務している従業員が継いだりすることが多かった。だが現在は、多くの経営者がPEファンドに事業を売却することを選んでいる。PEファンドへの売却価格は数百万ドルにもなることも多く、前世代の経営者が取り得なかった儲けの多いエグジット戦略となっている。 ■プライベートエクイティの世界 PEとは非公開企業への投資、または非公開とすることを目的とした公開企業の買収を指す。PEファンドは機関投資家や富裕層から調達した資金を、成長の可能性を秘めている、あるいは業績改善の余地がある企業に投資する。 PEファンドは通常、投資先企業の経営やリストラに積極的に関与し、最長で約7年かけて企業価値を高めてから売却し、利益を得ることを目指す。 PEファンドの目的は、経営改善や戦略的イニシアチブの追求、資本構造の最適化で公開市場よりも高いリターンを生み出すことだ。PEファンドは買収資金をエクイティと負債の組み合わせで調達することが多く、負債は通常、買収する企業の資産とキャッシュフローを担保とする。ファンド業界は近年大きく成長し、資金を必要とする企業にとって重要な資金源となっており、技術革新や経済成長、雇用創出を促進する役割を担っている。 ■技術職の業界が対象となっている理由 PEファンドは、技術者が働く企業は大きな利益を生み出す可能性があるとみている。HVACや配管、電気などの技術者は社会に不可欠な存在で、景気が悪い時でも安定した需要がある。加えて、修理の多くは緊急性が高いため顧客側には価格などを交渉する時間的余裕がさほどなく、技術者を派遣する企業は価格面で優位に立つことができる。 PEファンドは、大きな市場シェアと事業規模を持つ、効率的な大手企業を生み出そうと中小企業を買収している。