「日朝首脳会談」が実現する可能性、現状では極めて低い
まず北朝鮮側の拉致の調査結果を公表すべき
日本は今後、北朝鮮に対する戦略を立て直す必要があります。 拉致被害者の全員帰国を実現することが最重要目標であることに変わりはありませんが、北朝鮮政府は繰り返し、被害者について判明した事実関係を日本政府に説明しています。その説明は国家としての責任で行っている重いものです。「日本政府が期待する内容でないと北朝鮮側の説明を受け取らない」ということだけでは済まないはずです。ともかく、日本政府はこれまで北朝鮮側の説明を公表しませんでしたが、これは公表すべきです。 また、日朝首脳会談を実現するために日本側からいかなるサインを送るかについても再検討が必要です。米国が北朝鮮との首脳会談を実現させたのは、トランプ大統領個人の強い思い入れと大胆な行動があったからです。安倍首相も「金委員長には米朝首脳会談を実践した指導力がある」と積極的な評価をしましたが、トランプ氏独特の、金委員長に対するベタベタの甘い言葉とは比較にならないほど冷静です。 安倍首相がトランプ氏と同じことをすべきだとは思いませんが、人権理事会で非難決議案の共同提案を見送るというくらいの、とってつけたようなものではなく、一貫して明確な姿勢を北朝鮮側に示す必要があるでしょう。 日朝首脳会談の実現は、拉致問題の解決はもちろん、日朝関係全体、さらには東アジアの平和と安定にとって重要な意義があります。日朝双方ともこの際、これまでの経緯にとらわれることなく、積極的に行動することが期待されます。
------------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹