「死にたい」は「だよね」くらいで肯定したほうが救われる――ZOCから改名したMETAMUSEが目指す「希望」
「ZOC」って名前に貼りついてくるものがもう煩わしい
ZOCが今になって改名する理由は、アイドルという存在への視点が変化してきたことが大きいと大森は語る。 「ZOCに『A INNOCENCE』(2019年)っていう曲があるんですけど、『成長過程みせるのが / アイドルだって聞いた』という歌詞があんまり似合わなくなったなって思っていて」 2021年のアルバム『PvP』に収録された「CUTTING EDGE」では、「お金払って / 見守りたいのは成長過程という / 自分殺戮ショー」という歌詞があり、アイドルの成長を「消費」することへの問題意識がうかがえる。大森が続ける。 「アイドルっていうのは、日本語にすると偶像崇拝じゃないですか。私は、自分自身で偶像を掲げて、こうなりたいって思った自分にはめ込んでるアイドルを応援してるんです。それはもはや実像を見せてもらってるし、実像崇拝だなっていつも思っていて。他人が投げかける勝手な偶像には、私は超アンチなんですね」 雅雀は、さらに「虚像」という言葉に言及する。 「『SNSの虚像が好きだ』って言葉でぺらっと言えるみたいな状態から脱して、生きざまを全部突っ込んでるし、人生全部を懸けてるから、『そういうものを見たい』って言ってくれてる人は、すごい増えたなとは思います。ZOCっていう名前にベタッと貼りついてくるものが煩わしいっていう段階になったっていうのも、すごくわかるんです」
亡くなった人のことも、変わらず愛したい
METAMUSEへの改名後、初めてリリースされるシングル「tiffany tiffany/わがままぱじゃま」。その「tiffany tiffany」で描かれるのは、本来ならば今年3カ月ほどメンバーとして期間限定加入するはずだった女性だ。しかし、彼女は昨年12月、息を引き取った。大森がその日のことを回想する。 「亡くなったって聞いた時点では、私は信じてなくって。『予定を全部捨ててすぐ行くんで、いる場所を教えてください』みたいなことを、ずっとLINEで送って」 女性が亡くなった後、大森は一気に「tiffany tiffany」を書きあげた。ZOCへの期間限定加入は、女性がDM(ダイレクトメッセージ)を大森に送ってきたことで約束された。本人がそう希望したからだ。 「DMで『お電話でお話ししたいです』って言われて、午前4時、5時とかだったんですけど『全然今でいいですよ』って、2人ですごく話して。その電話ですぐにおっしゃってくださったのが、『私は生まれ変わったらアイドルになりたかったです。でも、生まれ変わってからやるぐらいなら、死ぬ前に今からやるべきだなと思ったので連絡しました』って」 そもそも、女性は大森と10年以上前からずっとお互いの存在を認識し、お互いの活動を見てきた仲でもあった。そんな女性の突然の訃報に、大森はどう向き合ったのだろうか。 「『もっとできたことあったんじゃないかな』っていう感情があるけど、それに引きずられ過ぎるのはうぬぼれだな、っていう気持ちがあるんです。今まで何人かの友達が亡くなってきたし、いろんなことを経験してきたうえで、私が『もっとできたのに』って考えるのは、その人の人生の中でどれだけ高い地位に見積もってるんだろうっていう気持ちも生まれてきちゃうんです」 「そういうなかでも、『今までと変わらないように愛していきたいな』と思うんです。今はなくなった宝物も、大事にしたいなって。だから、その人の人生を、同じ距離感で変わらず愛していきたいなって気持ちに、わりとすぐなりました。亡くなっちゃったことばっかりに引きずられると、逆にその人の人生の楽しかったことや、確実にやってきたこと、やり尽くしたことが見えなくなっちゃうじゃないですか。個人的には、現在進行形でその人を愛することで、死んだ人を私の中で殺さないようにしたいです」