製薬企業のオムニチャネルマーケティング活用例―ファイザー株式会社 希少疾病部門、南波氏の報告
◇ITヘルスケア学会のシンポジウムから【後編】
(【前編】から続く)新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)のパンデミックを経て、医師に対する製薬企業の情報提供のあり方が大きく変わった。従来はMR(製薬企業の医薬情報担当者)が医師と直接面会して情報提供をしていたが、新型コロナの影響で厳しい面会規制を課す医療機関が増えた。そのような環境で、より適切なタイミングで適切な情報を提供するためにオムニチャネルマーケティングが有効と考えられている。このほど東京都内で開かれた第16回ITヘルスケア学会年次学術大会のシンポジウム「新時代の医療におけるマーケティング―患者さんに最速で最適な医療を届けるために」では、実際にオムニチャネルマーケティングに携わるファイザー株式会社 希少疾病部門 ビンダケル・ビンマック マーケティング部 部長、南波秀洋さんが同社の取り組みなどを講演した。
◇ファイザーの企業目的
南波さんは「Our Purpose 実現に向けたオムニチャネルアプローチの実践」と題して、マーケティングにおけるオムニチャネル活用についての“各論”を説明した。講演の要旨は以下のとおり。 ◇ ◇ ◇ 我々ファイザーのパーパス、企業目的は「患者さんの生活を大きく変えるブレークスルーを生みだす」で、これは全世界共通になっています。込められた意味としては「ペイシェント・セントリシティ」、患者さん中心の医療という考え方が非常に強く、ブレークスルーという言葉に「革新的な薬剤」という意味が含まれています。つまり、「革新的な薬剤をいち早くお届けすることで患者さん、ご家族一人ひとりの生活を変えていく」ために、弊社は一丸となって尽力しています。 私のチームは、難病指定されているATTR-CM(トランスサイレチン型心アミロイドーシス)という二次性心筋症の治療薬を扱っています。ATTR-CMは心臓に変異したアミロイドが沈着して心不全の症状が現れ、患者さんの予後が悪くなるという病気です。患者さんが日本のどこに住んでいても、適切な診断治療が受けられる世界を作ることを目指し、チーム一丸となって取り組んでいます。 そのようななかで、医師にどうやって情報を届けるか。新型コロナ以前は、MRが社内の全ての情報を持って先生方へ頻回訪問することにより、しっかりとお伝えするというモデルがうまくいっていました。新型コロナのパンデミック中は、かなりの医療機関で訪問規制がかかって直接頻回訪問ができなくなったため、大手医療系の情報プラットフォームから、ウェブを通じて情報をお届けし、先生方には必要な情報を自ら取りに行っていただくこととなりました。さらに、MRとして先生方にウェブ面談をお願いしたり、多数のメールが先生方に届いたりと、あまりよくない状況になっていました。 新型コロナ前も訪問規制はありましたが、パンデミックによって完全アポイントメント制が増えて頻回訪問が難しい状況になり、それは今もある程度続いています。