これからのマーケターに必要なこと。人に会い、人を笑顔にするファミリーマート足立光氏の思考術
DIGIDAY JAPANのインタビューシリーズ「look inside!─マーケターの思考をのぞく─」では、企業の成長につながった施策や事業を切り口に、そこに秘めたマーケターの想いや思考を追っていく。 これからのマーケターに必要なこと。人に会い、人を笑顔にするファミリーマート足立光氏の思考術 「40%増量」「生コッペパン」「ファミリーにゃ~ト(猫の日キャンペーン)」「1個買うと、1個もらえる」、Tシャツや靴下を含む幅広いラインナップのプライベートブランド「コンビニエンスウェア」、コンビニ業界初のファッションショー「ファミフェス」──と、話題性の高い仕掛けを次々と繰り出すファミリーマート。その勢いはとどまるところを知らず、既存店日商(2024年6月)は34カ月連続で前年比超えを実現している。 こうした「ファミマの快進撃」をマーケティング面から牽引してきた同社CMO足立光氏は、2024年3月からはCCRO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)を兼務する形で、新規事業やデジタル事業も統括している。 マーケティングの枠を超え、八面六臂の活躍を見せる同氏は、どのように組織を動かし、成果を出してきたのか。これまでの道のりや組織づくり、そして自らをどのようにアップデートしているかについて、話を聞いた。 ◆ ◆ ◆ 追う側から追われる側へ ──CMO着任後、最初に行ったことはなんですか? ファミリーマートとはどのような会社なのかを明文化することから始めました。それは新たに何かを作るというより、全員で自分たちは誰なのかを合意するためのもの。つまりは自社ブランディングの再確認です。明文化しようと言い出したのは僕ですが、経営企画部に主導してもらい、各部署が持ち寄った意見を集約していくプロセスを取りました。 その結果、ターゲットのコアセグメントは20~50代の男性で、強化セグメントは30~50代の女性とシニア。そして、特徴を5つのキーワード(①もっと美味しく②たのしいおトク③「あなた」のうれしい④食の安全・安心、地球にもやさしい⑤わくわく働けるお店)に再定義しました。 ファミリーマートというブランドの方向性が決まったら、あとはどんどん施策を打っていくだけです。この時、既存メンバーが中心となって明文化を進めたことで、みんなの腹に落ちる内容になったと思います。 足立 光/株式会社ファミリーマート マーケティング本部・デジタル本部 エグゼクティブ・ディレクター、CMO兼 マーケティング本部長、CCRO兼 デジタル本部長。新卒でP&Gジャパンに入社。シュワルツコフ ヘンケル社長・会長、日本マクドナルド上級執行役員・マーケティング本部長、ナイアンティック シニアディレクター等を経て、2020年10月よりファミリーマートに参画。I-neおよびノバセルの社外取締役、スマートニュースおよびコープさっぽろのマーケティング・アドバイザーも兼任。著書に『圧倒的な成果を生み出す「劇薬」の仕事術』。共著に『世界的優良企業の実例に学ぶ「あなたの知らない」マーケティング大原則』『アフターコロナのマーケティング戦略 最重要ポイント40』。 オンラインサロン「無双塾」主宰。 ──この3年半で、特に大きなインパクトをもたらした施策・プロジェクトを教えてください。 まず挙げられるのは「40%増量作戦」ですね。もともとファミリーマートにあった「ちょっとお得なイメージ」を象徴するような施策で、かなりのインパクトがありました。値引きではない方法で派手に打ち出せただけでなく、競合2社が追随する形になった点でも印象に残る事例です。それまで追う側だったファミリーマートが追われる側になった、転換点となるキャンペーンのひとつになりました。 ほかにもインパクトをもたらした施策は、季節フェアの「いちご狩り」など絞りきれないほどたくさんありますが、同時にそもそもの考え方も変えていきました。そのひとつが、1月はいちご、8月は増量というように、毎年同じキャンペーンを実施するようになったことです。同じ企画を改善しながら実施していけば、やみくもに新しい施策を打たなくても、売上にも客数にも貢献できることが証明されたと思います。 また、数ある人気企画のなかでも「ブラックサンダーフラッペ」と「U.F.O.焼きそばパン」は、競合他社と近い関係にあったメーカーがファミリーマートと組んだことが業界内で話題になりましたね。多くの人に「最近のファミマは元気があるな」と感じてもらえて、社内メンバーの自信にもなった。自分たちはフォロワーではなく、チャレンジャーとして、業界をリードしていく側なんだと。このあたりから社員の意識が変わりはじめました。 目指したのは、自走する組織づくり ──実際、どのように組織に働きかけたのでしょうか? 最初に、僕が仲間だと認めてもらうこと。それができたら、自分から動いて成功事例をいくつも作り、みんなが注目して同じ方向を向いたタイミングで、KPIを変えました。キャンペーン担当の場合、以前のKPIは売上でしたが、Xのインプレッション数やエンゲージメント率、プレスリリースをカバーした記事の数など、より具体的な数値に変えました。すると、KPIを達成しようと毎週数値を追うようになり、どんどん効果は上がっていきました。方向性を示し、それに向けて全員のKPIを変えると、組織は自走しはじめます。 僕はこの方法を「お祭りマネジメント」と呼んでいるのですが、「こういうこと、できたらいいな」と思ったことはどんどんやる。「ブラックサンダーフラッペ」や「U.F.O.焼きそばパン」のコラボ、ジャンプ漫画「呪術廻戦」とのタイアップ企画など、それまで経験値がなかっただけで、たいていのことはやろうと思えばできるということを、いまでは多くの社員が実感し、自発的に動いている。そうして目標値を大きく超えたら、関係者で祝勝会を開き、派手に祝います(笑)。 ──足立さんの参画によって、ファミリーマートのマーケティングはどのように変わったのでしょう。 大きく変わったことは3つあります。いちばんの変化は、業界をリードするという意識になったこと。ファミリーマートはチャレンジャーとして常に新しいことをやっていくポジションにあるのだという自覚が生まれました。 2つ目は、商品部の下請けからの脱却です。僕が入るまで、マーケティング部は商品部が作った商品の販促をすればいいという、受け身の考え方がありました。どんなに良い商品を作っても、お客様に知ってもらわないと売れないし、広がらない。すべての商品でできるわけではありませんが、外部に打ち出していくような大きな企画に関しては、最初のコンセプトづくりからマーケティング部も入り、商品部や営業部と一緒にキャンペーンを作り上げていくようになりました。 そして3つ目は、露出量の拡大です。商品やキャンペーンの数は変わらないのに、ファミリーマートの露出量が上がっているのは、1キャンペーンあたりの露出数が増えているということ。「広く・深く・もれなく」話題化することで、以前と比べて露出量が格段に上がりました。これをマーケティング本部以外の、ほかの組織にも浸透させていくことで、さらなる強化が実現しています。 ──現在のポジションで目指すゴールや目標についてお聞かせください。 ファミリーマートは長年業界3位(2021年からは2位)だったので、社内では常々「確固たるナンバー2になる」と口にしていますが、ゴールは特に設定していません。それは、ファミリーマートはコンビニだけでなく、スーパーやホームセンター、ECとも競合しているからです。おそらく30年後もファミリーマートは存在します。ただ、そのためには新しいことに挑戦し、時代に合わせて姿を変え続けられる組織でなければならないと考えています。 強いて個人的なゴールを挙げるなら、再現性の高い組織を作り上げることでしょうか。この3年半で組織の意識は変えましたが、組織構成やメンバー自体は基本的に変えていません。変えたことと言えば、外部とのコラボを専門に手がけるイノベーションアライアンスチームを新設したくらい。僕がいなくなっても残る、自走する組織づくりを目指しています。 違う業界・違う年齢・違う国の人と会うこと ──足立さんが考えるリーダーシップとは? リーダーシップには、フレキシビリティが大事だと考えています。短期的に多くのことを変えなければならないときはトップダウンで進めたほうが間違いなく効率がいいし、効果も上がる。ただし、トップがよほどの天才でない限り、継続は望めません。それにトップダウンの組織はみんなが自分の頭で考えなくなってしまう。流通業はトップダウン型の会社が多いけれど、現在のファミリーマートは、みんなが自分自身で考えてチャレンジしていくボトムアップが適していると考えています。 そのためには社員一人ひとりが意見を言える雰囲気にしておくことが重要です。プレゼンを受けて評価するときも、役職が下の人から順番に発言するスタイルに変えました。加えて、僕に対する問いはイエスかノーで答えられるようにするよう伝えています。たとえば、「オプションA、B、Cがあります。私はBがいいと思います。なぜなら、こういう理由です。進めていいですか?」と聞かれれば、僕はイエスかノーで答えられる。要はそこまで深く考えてほしいということです。 ──リーダーとして組織を率いる際、気をつけていることはありますか? 声を荒げることは、まずないですね。すぐに怒る上司の部下は、「怒られないようにする」ことに意識が集中し思考停止に陥ってしまう。それに気づいたのは、新卒で入ったP&G時代です。のちにP&G本社の社長・会長になったA.G.ラフリー氏がジャパン社の社長だったときに、秘書を代行していた時期があったのですが、彼はものすごく厳しいことをニコニコしながら言う。そばで見ていて、「これだな」と思いました。 それ以来、このラフリー方式を実践しているわけですが、会議ではネクストステップを詰めるようにしています。資料修正の際、「何時間でできますか?」と優しく聞く。仮に6時間と言われれば、「じゃ今日中だよね」と期限を決める。そうするのは時間の感覚を意識することが、とても大切だと思っているからです。早くできることはさっさと済ましてしまったほうがいい。特に流通業はPDCAを早く回すことが大事なので、それを意識してほしいという思いも込めて必ず期限を聞くようにしています。 ──若手マーケターに向けて、学びのアドバイスをお願いします。 マーケターに限らず、すべての人に共通することですが、インプットを超えるアウトプットはありません。何をどれだけインプットするかという「量」と「幅」が重要ですが、本は少なくとも1週間に1冊は読んでほしいですね。それでも年間約50冊は少ないけれど、量をシンプルに決めると結構続けられるもの。それと、AIをはじめとした最新テクノロジーを理解しておく必要はありますが、それに踊らされないよう見極めることも肝心です。 特にいまの若手マーケターに伝えたいのは、人と会うのはものすごい量のラーニングになるということです。なかでも、違う業界・違う年齢・違う国の人と会って話すと学びが多い。みなさんあまり意識していないと思いますが、東京はとてもスペシャルな街なんです。銀座から恵比寿までの狭いエリアでほぼ全業種の人が飲んでいるというのは奇跡的で、こんなことはアメリカなどほかの国ではあり得ません。なので東京にいる人は、インプットのためにも、積極的に地の利を活かして多くの人から学びを得てほしいと思います。 僕は周りの人が喜んでいるときに、強く喜びを感じるようです。そのことを自覚してから、周りの人を笑顔にすることが自分のミッションだと考えてきました。ファミリーマートのような会社は、お客様もですが、関係者の数が多い分、ファミリーマートが良くなれば、多くの人がハッピーになる。「最近のファミマはいいですね」と言ってもらえるとうれしいですし、もっとたくさんの人を笑顔にしたくなります。 今年度からCCROとしてデジタルや新規事業も兼任することになりました。まだ「仕込み中」なので詳しいことは言えませんが、来年あたりには世間を驚かせることがいくつかできると思うので、楽しみにしていてください。 Written by 山本千尋 Photo by 中山実華
編集部
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