小6からシンナー吸う生徒、夜の道路に飛び込みダンプカーにはねられ…「夜回り先生」が語る薬物の恐ろしさ
夜間に繁華街を巡って若者の非行防止に取り組み、「夜回り先生」として知られる水谷修さん(68)が熊本市内のホテルで特別講演を行った。自身が経験した薬物の恐ろしさを語り、「誘われたら、話題を変えたり、話をそらしたりしてほしい。それでもダメなら、その場から立ち去って人が多い方に逃げて」と訴えた。(中村由加里) 【写真】鹿児島市・天文館で防犯パトロール35年、きっかけは児童にシンナー勧める若者…巡回1000回超
「さらば、哀しみのドラッグ―夜回り先生、いのちの授業」と題した講演で11月下旬に開催。水谷さんは34年前の赴任先で出会った高校の男子生徒のことを語った。
入学式の日に校門で立ち番をしていた時、シンナーのにおいがする生徒がいた。家庭訪問して母親から話を聞いてみると、小学6年生の頃からシンナーを吸うようになったと知った。壮絶ないじめから助けてくれた暴走族のメンバーと過ごすようになったのがきっかけだった。
入学式の翌日、生徒から「何度もやめようと思ったが、意志が弱くてやめられない」と打ち明けられた。一緒に24時間過ごして、シンナーを絶てたら自宅に戻るという生活を送ることにした。だが、その生活も約3か月で終わった。生徒が夜の道路に飛び込み、ダンプカーにはねられて亡くなったからだ。「シンナーによる幻覚でランプが美しいものに見えたのだろう」。水谷さんはそう振り返る。
事故に遭う数時間前、生徒から「薬物をやめられないのは依存症という病気。誰かの助けがないとやめられない。先生は専門病院でも支援施設でもない」と言われた。腹を立てて予定があるように装い、生徒を帰らせた。「大変な失敗をした。自分が殺したようなものだ」と後悔した。
付き添った火葬場では、骨はほとんど残らず、わずかに残った骨も持ち上げるとぼろぼろと崩れた。「シンナーが憎い。うちの子を2回殺した。一度目は命、二度目は骨」。涙ながらに語る母親の言葉は、今も胸に刺さったままという。
聴講した高校生には「薬物勧誘を受けたら、だって、でも、どうしてを繰り返す『3D作戦』で手を出さないで」と呼びかけた。御船高2年の生徒は「薬は一度やったら抜け出せない。周囲から誘われても断る勇気を持ちたい」と述べた。
熊本県内では、大麻栽培や所持などの検挙が、若年層で年々増加傾向にある。10、20歳代の検挙数は2014年は3人だったが、23年は43人にまで増加した。県警国際・薬物銃器対策課の和田広史次席は「インターネット社会になり、流通量が増え、手に入りやすくなっている」と増加要因を指摘し、手を出さないように呼びかけた。