『王様戦隊キングオージャー』は5つの国、5つの文化を表現するため8割を「バーチャルプロダクションスタジオ」で撮影。服のシワまでCGデータ化する「ボリュメトリックキャプチャ」も活用し、実写のリアリティとアニメやゲームのような質感を共存させる技術に迫る【CEDEC 2024】
8月21日(水)~8月23日(金)の期間に開催された「CEDEC2024」において、『王様戦隊キングオージャー』にて使用されたバーチャルプロダクション、ボリュメトリックキャプチャの2点にフォーカスした「『王様戦隊キングオージャー』 特撮×バーチャルプロダクション ~ゲームエンジンを活用した映像表現の最前線~」が講演された。 【この記事に関連するほかの画像を見る】 2023年3月から放送された『王様戦隊キングオージャー』は、「戦隊」のメンバーが各王国の「王様」であるユニークな設定が特徴。メンバーが国を治めるという特徴から、5つの国と5つの文化が作中を通して描かれており、1年間のうち、8割がバーチャルプロダクションで撮影された。 講演には監督の上堀内 佳寿也氏、バーチャルプロダクションプロデューサーのソニーPCL・遠藤和真氏、ボリュメトリックキャプチャディレクターのソニーPCL・増田徹氏が登壇した。本稿では、バーチャルプロダクション、ボリュメトリックキャプチャを活用した撮影技法はもちろんのこと、「戦隊」という長年続くシリーズにおける新たな技術への挑戦などが、撮影時のエピソードを交えて語られた講演の一部をレポート。 『王様戦隊キングオージャー』のファンの方はもちろん、映像制作に携わる方やゲーム以外のジャンルでゲームエンジン活用に興味のある方などにとっても興味深い内容となっている。 文/anymo ■「5つの国・5つの文化」が存在する『キングオージャー』だからこそバーチャルプロダクションを起用 セッションの冒頭では、YouTubeにて公開されている「清澄白河BASE」でのメイキング映像を放映しながら撮影を振り返った。 本作は、LEDのインカメラVXを特撮で初めて本格的に使用したものとのこと。バーチャルプロダクションを起用した理由について、上堀内氏はキングオージャーに「5つの国・5つの文化」が存在するという特性を挙げた。 特に「シュゴッダム」の中世ヨーロッパ風の街並みや、最新の技術を使う「ンコソパ」の風景は、関東圏のロケ地のみではシチュエーションを作りづらいとのこと。街の風景をふくめて20を超えるアセットを制作したと語られた。 また、上堀内氏は「戦隊モノ」であるからこそ、「実写のリアリティとアニメやゲームに近い質感が共存したときに、視聴者に受け入れてもらえるのでは?」と考え、プロデューサーと相談してバーチャルプロダクションをメインで使用することにしたとのこと。バーチャルプロダクションの撮影ノウハウはPCL協力のもと、LEDウォール、クロマキー撮影をふくめた「手法」から相談して制作されていった。 撮影時の思い出深いエピソードとして、上堀内氏はPCLの技術力に驚いたとのことで、「最初に持っていったUEのフィールドデータがすごく重く、どこでも再生できないような重さだった。これを撮影まで1週間切った状態で渡したのに、稼働するように調整してくれた」と振り返った。 ■現実のカメラにあわせて背景が動く「In-Camera VFX」を活用 続いて、話題は制作体制とスケジュールに移る。本作は清澄白河BASEやロケ、東映のグリーンバックステージを使って撮影され、PCLはLEDのバーチャルプロダクションとボリメトリックキャプチャを担当した。 撮影に使用された「清澄白河BASE」は、LEDのバーチャルプロダクションとボリュメトリックキャプチャができる常設のスタジオ。大型で高精細、照明などが写り込みづらいLED液晶を設置しており、 アンリアルエンジンで製作された背景をリアルタイムで連動させることができる。 「バーチャルプロダクション」は、合成ではなく「LEDに映した映像を背景としてカメラに写す」というシステム。「In-Camera VFX」ではアンリアルエンジンの中のカメラと物理的なカメラが同期しており、物理カメラの動きにあわせて背景が描画される。 そのため、映像を投影するのみだと起こってしまうパースの崩れなく、撮影を進めることができる。また、実写で撮影した素材を背景に使用する「Screen Proces」という手法も使われたほか、あまり使われたことは多くないもののLEDに緑色を映し出すことでクロマキー合成の背景としても使用できるそうだ。 この技術を使った撮影について、上堀内氏は映像監督という視点から「お芝居は感情が伴うため、シーンを順に撮っていきたい」と語った。そのためにはインカメラVFXをクロマキーに、そしてまたインカメラVFX──と背景を切り替えていく必要があり、この切り替え作業の時間があまりかからなかったことをポイントとして挙げた。 切り替えは「5分、10分かかるかかからないか」とのことで、これによって時間がネックにならずにバーチャルプロダクションをドラマ・映画の撮影にも使っていけることが見えてきたと振り返った。 遠藤氏はこのことについて、CMやドラマの中でもワンシーンの運用が多かった清澄白河BASEで毎週放送する「戦隊モノ」ならではのスピード感に触れ、「照明部と美術部のスタッフの方の動きが速く、そこに合わせてやっていった」と語った。 また、自社の静止画・動画を投影するサーバーや、天球素材やXR的な処理ができるサーバーを導入したりし始めたところだったので、対応できた。『キングオージャー』の撮影では「一部だけグリーン」などの撮影ノウハウが溜まっていったそうだ。 撮影における思い出深いシーンを尋ねられた上堀内氏は「思い出深いシーンというよりは、1年間お互い実験しながら撮影できたことが思い出深い」と語る。また、バーチャルプロダクションの利点として「リアルタイムでのオブジェクトの移動」や「ライティングをリアルタイムで調整できる」という点を挙げた。 「実は毎カット太陽の位置が違う」とのことで、絵にあわせて、いちばんいい絵をその場でつくることが可能な点を「僕がバーチャルプロダクションをめっちゃ気に入ったところ」と語った。 また、バーチャルプロダクションの制作における体制図とワークフローも紹介。 スタジオの後ろにオペレーション卓が存在しており、アンリアルエンジンを触るスタッフをふたりほど配置、静止画やグリーンバックなどLEDを画像としてコントロールするオペレーターも別に存在しているとのこと。遠藤氏は本スタジオについて技術者をふくめてスタジオを運用しており、現場にいる全員で同時に合成作業をおこなうような体制が必要と語る。 各セクションとつながるエンジニアとスタジオを持つPCLが各部署とつながることで、後半になるにつれ、撮影チームに参加して現場を回せるようになってきたと振り返った。 また、「スクリーンプロセス」を利用した事例としてゴッカンでの雪のシーンを挙げた。 実写で撮影してきた360°映像の雪を背景に、手前に撮影用の雪を降らせたもので、上堀内氏は「レイヤーを作っていく手法としていちばんうまくいった」と振り返った。 ■服のシワもCGデータに取り込める「ボリュメトリックキャプチャ」で、演者の負担を軽減しながらダイナミックなカメラワークが可能に 「ボリュメトリックキャプチャ」とは、多台数のカメラで空間をキャプチャし、人物の動きを服のシワもふくめてCGデータにできる技術のことだ。 使用するようになった経緯としては、バーチャルプロダクションスタジオの隣にボリュメトリックのスタジオがあることを遠藤氏が上堀内氏に紹介したことで実現したとのこと。2023年の夏に公開された『仮面ライダーギーツ 4人のエースと黒狐』の宣伝PVで試用することとなった。 クワガタオージャー、仮面ライダーギーツ、敵の3人のみの撮影となったものの、このデータをいろんなところに配置して制作し、「ボリュメトリックキャプチャでどんなことができるんだろう」を詰め込んだものに仕上がったと上堀内氏は振り返った。 さらに、映像は22fpsという珍しいフレームレートで撮影したとのこと。これはキャラクタースーツを着ると生身より動きのスピードが落ちるため、フレームレートで調整するという技術を使う、戦隊ならではの理由とのことだ。 ボリュメトリックキャプチャの大きなポイントは「演者がOKテイクを出せば終了」する点だ。演技のみを収録できればよいので、カメラワークなどを後回しにできる、ゆえに演者の負担が重くならずに撮影ができるのだ。 実際の事例として、第39話のンコソパでの戦いが振り返られた。殺陣のシーンと爆走シーンのふたつを紹介し、特に後者の撮影技法についてはルームランナーだと「全力疾走」が難しいので、ワイヤーで補助しながら滑る床のうえを走ることで、アニメのような前のめりな全力疾走を表現できると紹介された。 さらに、最終話ではボリュメトリックキャプチャでロボを撮影したものの、スタジオの高さが3mなのにそれを超えてしまったというエピソードも。これはカメラの位置を調整して対応したとのことだ。 ■バーチャルプロダクション、ボリュメトリックキャプチャは「可能性を感じた」。1年間を経てスタジオも技術レベルが向上 講演の最後に最後に上堀内氏はこれらの技法について「可能性を感じた、魅力を感じている」としたうえで、「“新しい技術”など大きなことと構えずに、撮影手法のひとつとして捉えてほしい」、「自分のフィールドで、バーチャルプロダクションを当たり前にしていかなければいけないなと思った1年であった」と振り返った。 遠藤氏は映像制作を中心としているので、CEDECには縁がなかったが、映像制作にゲームエンジンが切っては切れないものになってきたと実感しているとのこと。「放送終了後も話題になるような作品に携われて、スタジオとしても個人としてもいい経験になった」と締め括った。 ボリュメトリックキャプチャを担当した遠藤氏は『キングオージャー』の前後で「我々の技術レベルも2、3つ上がったのでは」として、上堀内氏の言葉も振り返りながら「ドローンが使われるのと同じように、気軽にバーチャルプロダクション・ボリュメトリックが使われるといいなと思います」と今後への期待を見せた。 技術的な面だけでなく、新たな撮影手法だからこそできた表現や、撮影時のこぼれ話も飛び出した本講演。年間の8割をバーチャルプロダクションで撮影するという大胆なプランは、「戦隊モノ」という毎年変わっていく作品でこれからも新たな進化を見せてくれそうだという、一ファンとしても期待の高まるものであった。
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