パリ進出のヘラルボニー、松田Co-CEO「障害という言葉なしで商品が買われるように」
――まだまだたくさんの「異彩」が眠っているとなれば、彼らを掘り起こしていくのは大変な事業ですね。 私自身、兄が重度の知的障害を伴う自閉症があって、そのことが起業のきっかけになっています。確かに難しい事業ではありますが、私のような強い思い自体がないと続かないので、逆に競合もなかなか入りづらいと思うんですね。例えば同じようなことを大手の広告代理店や商社が始めますと言ったところで、非常に難しいと思います。
――先ほど、「障害 アート」で検索すると、支援や貢献の文脈でCSRやSDGsに関係した情報ばかりを目にしたとおっしゃっていましたが、御社が事業を始めたころも、取引をしようとした企業からは同じような見られ方をしたのですか。 それはありました。会社を設立した当初は正直、SDGs部門やCSR推進室に聞いてくださいということが多かったです。不本意だなと思うこともありました。
――そういうときは拒否したのですか? それともいったん受け入れた? どちらのケースもありましたね。自分たちとしてもまずはしっかりモメンタム(勢い)を作らなきゃいけないですし、スタートアップとして生き残る上でも、着実な成長を遂げていく必要がありました。ブランドもまだ完全にできあがっていない状態で、ただただ強気なことを言っても、単なる「痛いやつ」になってしまうので。 でも今はそういうことはやっていません。例えば単にIRに盛り込みたいからアートを使わせてほしいとかいうのは断っています。その代わりに結構、マーケティングのど真ん中の部署や、経営企画、宣伝戦略といった部署と一緒に組むようになりました。
――そもそも起業のきっかけは何だったのですか。 2018年の4月に、崇弥が当時勤めていた企画会社「オレンジ・アンド・パートナーズ」で、今年度の目標を社員一人ひとりが話すことがあったらしいんです。このとき、崇弥は障害・福祉の事業で起業したいと本気で思ったらしく、私にまったく相談せずにこの日のうちに社長に「会社を辞めて福祉で起業する」って言ったんです。 それで私に電話してきて、「俺は言ったから、お前も会社を辞めろ」と(笑)。あまりに唐突だったのでびっくりしたんですが、私も決心を固めて会社を辞めました。