たどり着けるかは運次第!? 究極の秘湯・野湯探検記【vol.16 番外編】 難易度高すぎ!! 涙のリタイアを強いられた野湯たち
「野湯(のゆ)」とは、自然の中で自噴していて、それを管理する商業施設が存在しない温泉のこと。この連載では、野湯マニアの著者が実際に足を運んで入湯したことのある、名湯・秘湯・珍湯(?)の数々を紹介している。 【写真】まるでサバイバルのようなの友人御夫婦との野湯巡りを見る(全17枚) タイトルの「たどり着けるかは運次第!?」は嘘ではない。そうはいっても、連載ではこれまで困難を乗り越えて野湯に到達するまでを書いてきたが、今回は番外編。泣く泣く途中で諦めた失敗の数々を紹介したい。
苦難の末に見つからなかった栃木の秘湯【御宝前の湯】
現代の野湯探索は、GPSを活用して、現在地をスマホなどで確認しながら行うのがセオリー。だが、実は私は、昭和の時代から数十年以上、紙の地図と自分の勘を頼りに日本全国を旅している。ネットで調べることくらいはするが、GPSの使用も同行の仲間頼りだ。 私が野湯探索を始めた2000年代。野湯の情報は現在と比べて極めて少なく、ネットを検索してもわずかな情報しか得ることはできなかった。その頃、まだまだ野湯経験の少ない仲間4人で、那須山中の「御宝前の湯」を初めて目指した。 那須連山の標高1200mの高地に広がる沼ッ原湿原の駐車場からスタートし、皆で意気揚々と登山道を歩き始めた。数分ほど行った先の分岐を、湿原に入る道ではなくショートカットのため右折して進むが、緩やかな登りのハズがどんどんと高度を稼いでゆく。 1時間ほどで標高差300mほど登ってしまう。さすがに間違いに気づいた。スタート地点の駐車場に戻り、かなりの体力と2時間もの時間をロスして駐車場から再スタート。 茶臼岳への登山道を30分近く進むとようやく野湯の上流と思われる谷底に出た。しかし、事前情報では涸れた沢のヤブコギとのことだったが、かなりの水が流れる沢。数日前の大雨の影響だろうと思い込み、その沢に入り込み下り始める。もちろん道は無く、ひたすら下流を目指すのだ。 沢歩きの装備も経験も不十分だった我々は、冷たい水を避け、登山靴のまま濡れないように沢岸を歩き、岩や崖を乗り越えて進む。 ヤブこぎを強いられることが多く、急斜面を這いつくばるようにしてよじ登り、転がるように沢に降りることを繰り返した。苔むした大岩などを乗り越えるのに、足場が滑って転倒もした。顔にクモの巣がかかったり、鋭利な枝が頬を突き刺したりもした。 沢を200mも下れば、目指す野湯に到着するハズなのだが、既に1時間以上ヤブと沢と崖と格闘しているのに、野湯に着かない。ただ、沢のあちこちで温泉成分が沁み出ている。 時刻は既に15時過ぎ。メンバーの体力はどんどん消耗。帰りにかかる時間を考えると、これ以上進むのは危険と判断せざるを得ない状況。 一縷の望みをかけて、一番若いメンバーが一人で沢を下って視察に出る。30分後に彼は戻ってきたが、滝の上部に出てそれ以上は進めなくなったとのことであった。その時初めて、野湯のある谷とは違う谷に入っていたことに気づいたのである。 疲れ果てていたメンバー一同、愕然とした。野湯に辿り着けなかったことよりも、今下ってきたこの沢を登り返さなければならないという事実に、泣き出しそうだった。 そうはいっても、戻るしかない。全身泥だらけ、傷だらけで、ずぶずぶの濡れネズミのようになって何とか登山道に戻り、どっぷりと日が暮れた頃にかろうじてクルマに生還できた。