「宮藤官九郎作品は“不適切”」と批判する人に欠けた視点 「ホモソーシャル作家」という評価は実は正しくない
想像されるのは「ホモソーシャル」といった言葉を用いた批判である。ホモソーシャルとは、女性および同性愛者を排除することによって成立する、男性間の緊密な結びつきや関係性を意味する社会学の用語である。 『木更津~』は、基本的には男性5人組の話なので、そこにはたしかに男同士の絆を感じることができる。実際、放送時に見ていた女性の中にも、あのような関係性に憧れる人もいただろう。 『木更津~』のあとにも、宮藤官九郎作品ではないが、嵐の二宮和也や小栗旬が童貞の高校生を演じた『Stand Up!!』(2003年、TBS)や、嵐の5人が主演した映画『ピカ☆ンチ LIFE IS HARDだけどHAPPY』(2002年)など、男性数人が仲良くする物語は多く作られ、支持を得た。
「ホモソーシャル」という言葉が今ほど一般的でなかった当時は「チーム男子」といった文脈で、男性数人がわちゃわちゃと仲良くしている状況を女性が“萌え”の対象として歓迎し、消費される向きもあった。 気をつけなければいけないのは、男性同士が仲良くすることや、その絆自体に問題はないということだ。だが、それが女性を排除したり、蔑視したりすることにつながると問題である。 『木更津~』では酒井若菜演じるモー子に対して、男たちが「ヤラせろ」といった軽いノリをしめす。男性同士の絆を強固にするために、モー子というキャラクターが使用されている感も否めない。
現在の価値観では疑問視されるのは当然のことで、当時見ていた高校生の筆者の価値観としても「大人になったらこうなるのか……?」と疑問を感じ、抵抗感を覚えるものではあった。 宮藤本人も、女性の気持ちがわかるわけないと言われることについて、「たしかに、僕も自分の作品を見返すと、『タイガー&ドラゴン』あたりまでの女性の描写や扱いはひどかったんです。だからそれはわかるんだけど、僕も歳をとっておじさんになって、さすがに言っちゃいけないことはわかっている」(同上)と語っている。