『シビル・ウォー アメリカ最後の日』暴走する権力に向けた抵抗の物語
大統領の任期を制限する「合衆国憲法修正第22条」とは?
最初に挙げた「大統領が三期目」は、本作の内戦を考える上で非常に重要な要素だ。大統領を追い詰めているのはカリフォルニア州とテキサス州が連合した「西部勢力」だが、本来リベラル寄りで民主党色が強いカリフォルニアと、保守的で共和党支持が根強いテキサスが手を組むのは政治的にほとんどありえない。 逆にいえば、政治信条や価値観の壁を越えてでも、両者には手を組むべき必要性があったのだ。そして手を携えてまで守りたいものがあるならば、それはおそらく「合衆国憲法」だろう。国の最高法である憲法には、大統領や国家権力の暴走を食い止める力があるからだ。 アメリカの大統領の任期を2期までと定める「合衆国憲法修正第22条」が、議会で可決されたのは第二次世界大戦後の1947年。もともと合衆国憲法に任期の制限はなかったが、初代大統領ジョージ・ワシントンが3期目の出馬を自ら却下したこともあって「大統領職は2期まで」が不文律的に慣例化していた。 なぜ大統領を2期以上続けてはいけないのか? ひとつは民主主義や立憲主義の原則から、ひとりの人間に権力が集中して独裁者が生まれることを防ぐため。もうひとつは、長期化した権力は腐敗する可能性が高まるから。指導力や清廉潔白さとは関係がない。国の権力は国民から委託されるもので、個人が私有するものではない。トップが常に入れ替わるシステムを維持することは、権力が互いを抑制する三権分立と並び、民主主義国家にとって不可欠な基本中の基本なのである。 しかし第二次世界大戦が起こり、戦時には強いリーダーシップが必要だとフランクリン・ルーズベルト大統領が異例の4選を果たし、脳出血で亡くなるまで12年以上在職した。ルーズベルト政権の評価は脇に置いて、「戦時」や「非常事態」という言葉は権力とって都合がよく、歯止めが効かなくなりがちだ。戦後に改めて大統領任期を明記しようと制定されたのが「修正第22条」だったのである。 つまり『シビル・ウォー』の大統領が3期目なのは、憲法を捻じ曲げて独裁の道に進んだということ。まさに国が根幹から崩れ落ちる状況だからこそ、西部勢力は大統領自身によるクーデターとみなし、政府相手に戦端を開いたと考えるのが自然だろう。邦題にある「アメリカ最後の日」は、劇中のワシントンD.C.陥落ではなく、映画が始まるよりずっと前にすでに訪れていたのである。