『シビル・ウォー アメリカ最後の日』暴走する権力に向けた抵抗の物語
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』あらすじ
連邦政府から19もの州が離脱したアメリカ。テキサスとカリフォルニアの同盟からなる“西部勢力”と政府軍の間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていた。「国民の皆さん、我々は歴史的勝利に近づいている――」。就任 “3期目”に突入した権威主義的な大統領はテレビ演説で力強く訴えるが、ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っていた。ニューヨークに滞在していた4人のジャーナリストは、14ヶ月一度も取材を受けていないという大統領に単独インタビューを行うため、ホワイトハウスへと向かう。だが戦場と化した旅路を行く中で、内戦の恐怖と狂気に呑み込まれていくー
映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の原題は「CIVIL WAR」。直訳すると「内戦」だが、「THE CIVIL WAR」と書けば、1861年に勃発したアメリカの南北戦争を指す。ただし本作が描いているのは、南北戦争や過去に起きた内戦ではない。近未来のアメリカを舞台にした、あくまでも架空の内戦である。しかし“分断”という言葉が身近なものとして語られる世界の現状が行間に織り込むように反映されていて、まるで現実と見紛うリアリティに悄然とさせられる。 イギリス人であるアレックス・ガーランド監督がアメリカを舞台に選んだのは、今日起こり得るケーススタディとして最もセンセーショナルでヴィヴィッドな国だからだろう。ただし背景の説明は最小限にとどめ、内戦下で起きる事象を具体的かつ写実的に描くアプローチによって、アメリカのみならずさまざまな国やシチュエーションになぞらえられるように設計されている。 市民が銃を取って民兵となり、武装集団が乱立する様はいかにもアメリカ的に思える。しかし政治や価値観の分断、疲弊した社会にはびこる偏見や差別の暴走、報道の弱体化などは、われわれを取り巻く世界の現実をアンプを通すように増幅させて戯画化したものなのだ。