大宮南の田中龍太郎監督「3年間誰がレギュラーになるかわからない」普通の公立校だからこそ味わえる充実感
10月13日、第103回全国高校サッカー選手権埼玉予選はいよいよ決勝トーナメントが始まった。初戦を迎えた大宮南は2試合を勝ち抜いてきた川越南と対戦し、スコアレスのまま突入した延長戦で4ゴールを叩き込み、4-0で勝利した。 【フォトギャラリー】決勝トーナメント1回戦試合風景 「やっぱり選手権の初戦は毎年硬くなって難しいゲーム」 大宮南を率いる田中龍太郎監督がそう試合を振り返った通り、難しい試合となった。 大宮南はS2(埼玉2部)Aリーグに所属しているため、この"県大会"と呼ばれる決勝トーナメント1回戦からのスタート。リーグ戦では2勝5分9敗で10チーム中8位と、残り2節を残し残留争いの真っただ中。リーグ戦では力が互角か上の相手との試合が多く、守備的な戦い方が多い中、この試合では相手が自分たちに合わせてくる、普段とは逆の立場となった。 5バックで守備を固めて挑んできた川越南に対し、ボールは回せるが、なかなか決定機を作れず、前後半の80分ではゴールを決めることが出来なかった。それでも延長戦でFW9黒木隆成(3年)が先制ゴールを決めると、そこから堰を切ったようにゴールが決まり出し、延長戦だけで大量4ゴール。4-0の完勝となった。 ただ、数字上は4-0の完勝だったが、「川越南の子たちも最後まで集中を切らさずにやっていたので延長までいってしまった。80分ではどっちが勝つかわからなかった」と指揮官も相手の戦いぶりを称えた通り、どちらに転んでもおかしくないゲーム。手放しで喜べる内容ではなかった。 それでも「最終的に点が取れたので、それは次に繋がる」と、苦しみながらも勝ち切ったことが、次戦の浦和北戦に向けては好材料になったと田中監督。 田中監督は選手時代に武南高校で選手権の全国制覇を経験。順天堂大では大学サッカー総理大臣杯優勝に大学インカレ優勝と輝かしい経歴を持つ。そんな経歴を持ちながら、田中監督の周りにはどこか温和な空気が漂う。試合前のミーティングでも真面目な空気から最後は笑いも起こっていた。 大宮南は普通の公立校でありながら、コロナ前までは180人ほどの部員数がいたという。「コロナになってからは中学生がみんな受験をしないで私学に行くようになってしまった」というが、それでも現在も部員数は約120人と多い。そこには「うちなんかは推薦で採ってないので、3年間誰がレギュラーになるかわからない。今日も本当に真面目に努力した子が、1年の時は(U-16の試合に)出ていなくても3年で出ていたりするので、いくらでもチャンスがある」という強豪校にはない環境や、田中監督の人柄によるところが大きいと想像できる。 「埼玉にはいい選手がいっぱいいるので、強いチームに行きたいというのもわかりますけど、あそこに行って活躍したいという選手が増えてくると公立高校も盛り上がりますよね。私学に行って3年間出れない子も公立に来ればエースになれるかもしれない。うちの10番(MF10石井恭翔(3年))も私学から誘いもあった中で家が近いということでうちに来てくれて、1年からずっと試合に出ていますし、本人は活躍出来て楽しんでくれていると思います。 特別なにがある学校という訳ではないですが、みんな楽しそうに学校生活を送っている。そういう校風です。今、公立高校は本当に厳しいですけど、やっぱり公立高校に行きたいと思っている子たちに、そういう姿を見せられればと思います。目標はベスト8。あそこまで行けばテレビにも映るし、OBもスタジアムに応援に来てくれる。そこを目標に一個一個積み重ねるだけです」