時を超えて残された優美な姿に想像巡らせて…第76回正倉院展
1300年前の宝物を収蔵する正倉院宝庫(奈良市)で10月上旬、開封の儀が行われた。毎年1回、天皇の許可を得て扉を開け、手入れと点検をする。 【写真】正倉院展に出展されている「新羅琴」
厳重に管理することで、奈良時代から貴重な宝物が守られてきたが、かつては持ち出されたこともあったという。平安時代の記録「 雑物出入帳(ざつもつしゅつにゅうちょう)」では、聖武天皇の遺愛品が献納されて半世紀後に即位した嵯峨天皇の時代に、倉から出された記述が目立つ。 屏風 (びょうぶ)や琵琶、琴など多岐にわたる。
『唐物の文化史――舶来品からみた日本』(岩波新書)の著者、河添房江・東京学芸大名誉教授は、海外からの使節を歓迎する宴や宮中行事に活用したとみる。正倉院に伝わる唐や新羅からの舶来品を配置することで、「文化的に天皇の権威を示そうとしたのでは」。
後に戻された宝物もあるが、代替品の場合などもあった。823年、「 金鏤新羅琴(きんるのしらぎごと)」2面が出され、代わりの新羅琴2面が納められた。このうちの一つが、26日に奈良国立博物館で開幕した第76回正倉院展に出展されている。全長158・2センチ、十二弦の楽器だ。細く切った 金箔(きんぱく)で 鳳凰(ほうおう)や草花を描いている。
残された優美な姿を前に、かつて倉にあった宝物が華やかな場で奏でられる様子や、その行方に想像を巡らせてみるのもいい。勅封を解く時期に合わせて宝物が一般公開される正倉院展ならではの楽しみだ。(文化部長 沢田泰子)