お金がなくても楽しそうな人の秘密…和田秀樹「60歳でメンタルがヨボヨボになる人、幸せになる人の違い」
■誰かと比べるのは無意味。知性ある人の合言葉は「自分は自分」 私は、人と自分を比較するという行為は、賢く生きるということとは対極にあるものだと思っています。 60代以降、うつ病のリスクは上がります。その大きな要因は、あらゆる面で個人の差が広がる年代に入ってくるからでしょう。 ---------- 自分は定年退職したが、あの人はまだ社会で活躍している。 自分は家族を失くしたが、あの人の家族は元気だ。 自分は体の調子がずっと悪いが、あの人はいつ会っても元気だ。 ---------- そんなふうに、さまざまな要素で違いが生じやすいがゆえに、「あの人に比べて自分は恵まれていない」と、差を痛感したときに落ち込んでしまうのです。 こういった感情には致し方ない部分もあると思います。けれど、老年期に差し掛かった今こそ、ぜひ「私は私」を合言葉にしてみてください。幸せは、外野や人の状況によって左右されるものではありません。あなた自身の尺度で決めるものです。 物事を優劣や勝ち負けの中でとらえようとすると、人生はとても生きづらく、後ろ向きなものになってしまいます。上には上がいますし、価値観もさまざまです。何かを比べ出したらキリがなく、劣等感にも頻繁に苛まれることになるでしょう。 そして、「下を見て安心しようとする」こともまた、自分の進化を妨げてしまうことにつながります。どん底に落ちたとき、自分より状況が悪い人を見て満足したくなるのは、わからないことではありませんが、生産的とは言えません。 学生のケースを例にすると、最終的に望んだ成果を手にするような生徒は、たとえ成績が下降してきたときも、諦めないで上を目指し続けます。けれど、「自分より成績の悪い人がいるからまだ大丈夫」と安心しているような生徒は、さらに成績が下がっていってしまうのです。 恥ずかしながら、私もかつては勝ち負け思考の強い人間でした。子どもの頃から「常に人より賢くありたい」と考えるタイプだったのです。 たとえば学生時代、自分が成績上位になってからは気分よく過ごしたのですが、勉強が嫌になって成績が悪かった頃は、いつも不機嫌で、クラスメイトのちょっとしたいたずらにも腹を立てたりしていたものです。 けれど、さまざまな経験を重ねたり、たくさんの高齢の方々を診療したりするなかで、人生観が変わっていきました。 社会的に成功を収めていても、いつも不満そうにしているシニアがいる一方で、金銭的にそこまで余裕がなかったとしても、楽しそうに日々を送っているシニアもいます。そういった様子を目にするうちに、「人生を勝ち負けでとらえることに、あまり意味はないんだな」と思うようになったのです。 そういった考え方の変化があったからなのか、最近では周囲から「和田さんは、なんだか昔より表情が明るくなりましたね」などと言われるようになりました。 私たちは人に勝つためではなく、幸せになるために生きています。だからこそ、誰かと幸せのレベルを比べっこするのは、「無意味」以外の何物でもありません。 人に負けない方法や人の優位に立つ方法を探し求めるのではなく、自分がどうやったらハッピーでいられるか、その方法を模索するほうが、はるかに賢明ですし、上機嫌な人生を叶えてくれると思います。 ---------- 和田 秀樹(わだ・ひでき) 精神科医 1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)など著書多数。 ----------
精神科医 和田 秀樹