「説明を重ねるほどどこか他人事に…」映画『ぼくのお日さま』奥山大史監督が作品に残した“余白”
「台本から逸れても、面白いじゃないか」
――若葉さんは子どもと一緒に撮影する機会はあまりありませんでしたが、現場ではいかがでしたか? 若葉 一緒になることはほとんどなかったですね。荒川と五十嵐が車に乗っているシーンを撮影する時も、さくら演じる中西さんと「初めまして」くらいの挨拶はしましたが、待機場所が違いましたし、緊張しているムードでしたから。「僕がしゃしゃり出るのは違うかな」と思い、大人しくしていました。 ――台本を持たない子とお芝居をするのって、とても難しい気がするんですけど、いかがでしょうか。 若葉 僕の場合は、逆に台本を読み込んでお母さんが教えたのかな? みたいなゴリゴリの子役芝居をやられた方が困っちゃうかもしれません(笑)。それは子役に限らず大人の役者でも居ますけど…自分の中で固まっちゃってる人というか「監督、このまま進めていいですか……?」って。現場では、そういうムードがまったくなかったし、中西さんのシーンもそこに佇んで車を眺める姿が、本当に美しくて素晴らしかったです。だから、もし自分が彼ら彼女たちと一緒に演技したとしてもやりにくいと感じることはなかっただろうと思います。 奥山 子どもが台本と違う方向に走り出したら、「戻さなきゃ」って軌道修正をはかる役者さんもいるかもしれません。でも、今回の撮影では、子どもとの共演シーンがない人も含めて「台本から逸れても、それはそれで面白い」と思える人たちが集まって下さった気がします。
若葉竜也が直感を信じて演じた五十嵐役
――そうやって撮影していくと、脚本から変わることもありそうですね。 奥山 ありますね。五十嵐と荒川のシーンは編集段階で順番を大きく入れ替えました。2人がベランダでタバコを吸うシーンは脚本段階では序盤に考えていたんですけど、編集でグッと後半に変更したんです。 ――2人の仲がかなり親密だとわかるシーンですよね。 奥山 あのシーンは、本当に若葉さんの演技がすばらしくて。タバコを吸う荒川のそばで、五十嵐が「一口ちょうだい」と言うセリフを書いていたのですが、若葉さんはリハーサルの時から言わずに、ただ口を開けて待っていたんです。それに対して、池松さんも台詞を待つことなく自然な間で五十嵐の口元にタバコを持っていきました。 その様子だけで、ぐっと2人の仲が親密に見えたんです。きっと、過去に10回以上このやりとりをしたから何も言うまでも無いんだな、と。台詞をアドリブで足していく演技はできても、台詞を削る演技ってなかなかできないので、すごいなって思いました。 ――若葉さんは事前に「ここはセリフがいらないだろう」と考えて撮影に臨んだのでしょうか? それとも瞬発的に? 若葉 登場人物と対面した瞬間に何が出てくるのかを楽しんでいる部分もありますね。頭で考えて整理整頓して表現するのは、僕はあまり得意ではないし、あまりいいものにならない気もしているんです。 先ほど監督が言った「台本から逸れていくのを楽しむ」に近いですけど、「この映画では、どこに連れて行ってくれるんだろう」みたいな。枠からはみ出していく瞬間が、何かを作る上で好きなんです。