「説明を重ねるほどどこか他人事に…」映画『ぼくのお日さま』奥山大史監督が作品に残した“余白”
映画でお気に入りのシーンは?
――映画『ぼくのお日さま』を観賞して、改めて印象的だったシーンはどこですか? 若葉 僕は登場しないのですが、コーチの荒川が運転する車に、タクヤとさくらが乗り込んで、湖に向かうシーンが印象的でした。あの密室空間が世界の片隅を切り取っているようで最高でした。もう全員が愛おしく見えて。中華まんをみんなで頬張るんですけど、すごく暖かそうなんですよね。それでタクヤが小さい声で「い、いただきマンモス」って言う。そうやってちょっとふざけている姿が本当に素敵でした。 奥山 その後は、凍った湖で3人がアイスダンスの練習をするんです。あのシーンは2日かけて撮影していて、越山くんや中西さんに印象的なシーンを尋ねると、その湖のシーンを挙げるんです。でも個人的には、湖の直後に撮影した、五十嵐が初登場するガソリンスタンドの撮影が忘れられません。 クランクインからしばらくは小学校とか中学校とか、越山くんと中西さんが登場するシーンを撮り進めていました。2人には台本を渡していなかったので、そのシーンで一体何が起きるのか、全て一から現場で説明する必要があります。そこから撮れるようになるまで、テストを繰り返さなくてはならず、自分で選んだ手法とはいえ、これがなかなか大変で。 そんな日が続いた上で、湖のシーンを撮影して、へとへとに疲れてガソリンスタンドに向かって、若葉さんが合流されて。「このシーンはですね」と癖で説明しかけたのですが、池松さんも若葉さんも台本を読み込んで全部把握してきている。「1回やってみましょうか」と説明も無くテストしてみたら、完全にシーンとして出来上がっていたんです。なんか、感動で泣きそうになってしまって(笑)。消耗しかけていた心をお2人に助けていただいた、思い出深いシーンですね。 奥山大史(おくやま・ひろし) 1996年東京生まれ。長編デビュー作『僕はイエス様が嫌い』で第66回サンセバスチャン国際映画祭最優秀新人監督賞を受賞。その後、多数のミュージックビデオで監督や撮影を務めるほか、Netflix「舞妓さんちのまかないさん」で監督・脚本・編集を担当。本作が、今年の第77回カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション部門へ日本作品として唯一選出された。 若葉竜也(わかば・りゅうや) 1989年生まれ、東京都出身。2016年、無差別殺人事件を扱った映画『葛城事件』に出演し、第8回TAMA映画賞・最優秀新進男優賞を受賞。2024年には主演を務めた映画『ペナルティループ』が公開された。このほか、『前科者』『窓辺にて』(以上2022年)、『ちひろさん』『愛にイナズマ』『市子』(以上2023年)など出演作品は多数。公開待機作に『嗤う蟲』(2025年公開予定)がある。
ゆきどっぐ