パナマ運河を通過する船はなぜ「3割」も減少したのか? 「水位低下」が引き起こす知られざる危機をご存じか
国際貿易に暗雲
パナマ運河は、世界の貿易に欠かせない海上交通路のひとつだ。 米国大陸の中央部を横断し、太平洋と大西洋をつなぐこの運河は、船舶の移動距離を大幅に短縮し、国際貿易の効率性を飛躍的に向上させてきた。 【画像】「えぇぇぇぇ!」 これが大手海運の「年収」です! グラフで見る しかし近年、この重要な航路は深刻な問題に直面している。それは、パナマ運河の 「水位」 が下がり、船舶の通航が制限されているということだ。 2023年以降、この影響は顕著になり、徐々に回復へ向かっているが、どうしてこのような事態が発生したのだろうか。
パナマ運河の仕組みと水の重要性
パナマ運河は、北米と南米を結ぶパナマ共和国に位置する運河で、大西洋と太平洋をつないでいる。長さは約82kmで、船舶が高低差を越えて航行できるように設計されている。この運河を利用することで、南米を回り込む必要がなくなり、 ・航続距離 ・運航期間 を大幅に短縮できる。 運河の要所には、閘門(こうもん)と呼ばれる水門がいくつか設置されている。運河の最高地点は海抜26mで、閘門により前後を仕切った閘室という空間に水をためることで、船を上下させて通航する。 最高地点にはガトゥン湖という大きな人造湖があり、湖やその周辺の水源から水を供給して、船舶の昇降に必要な大量の水を確保している。 しかし、近年の気候変動により降雨量が減少し、ガトゥン湖の水位が低下している。この水位低下が、運河を通過できる船舶のサイズや重量に制限をかけ、通航に支障をきたすようになってきた。
エルニーニョとラニーニャ現象
パナマ運河の水位低下に大きな影響を与えている要因のひとつは 「エルニーニョ現象」 だ。エルニーニョ現象とは、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなる現象で、その状態が続くことを指す。これは、赤道上で東から西へ吹く貿易風が弱まることが原因となっている。 通常、赤道付近で温められた海水は貿易風によって太平洋西側に流れている。しかし、貿易風が弱まると、温まった海水が太平洋東側に残り、エルニーニョ現象が発生する。逆に、貿易風が強い場合は、東側の温まった海水が西側に流れ、東側では冷水の湧き上がりが増えるため、海水温が下がる。この現象は 「ラニーニャ現象」 と呼ばれている。貿易風によって太平洋の東側と西側で海水温が変動することを 「南方振動」 と呼ぶが、貿易風の強弱の原因はまだ解明されていない。エルニーニョ現象やラニーニャ現象は、世界各地の気候に大きな影響を及ぼしている。 パナマ共和国は、エルニーニョ現象の影響を大きく受ける地域のひとつだ。エルニーニョ現象が発生すると、パナマ共和国を含む中米地域では乾燥が進み、通常の雨期であっても降水量が著しく減少する。その結果、ガトゥン湖やその他の水源の水位が下がり、パナマ運河で使用する水の供給が不足する事態に至る。