パナマ運河を通過する船はなぜ「3割」も減少したのか? 「水位低下」が引き起こす知られざる危機をご存じか
パナマ運河に与える影響
2023年6月頃から2024年にかけて、強力なエルニーニョ現象が発生し、パナマ運河への影響が顕著になった。 ガトゥン湖の水位が低下したため、閘門の操作に必要な水が不足し、運河を通過できる船舶の最大重量やサイズに制限が設けられた。その結果、通常通過できる船舶の数が減少し、世界の貿易に大きな影響を与えている。具体的には、 ●運河を通過できる船舶のサイズ制限 水位の低下にともない、船舶の最大喫水(船が水面下に沈む深さ)が制限されるようになった。このため、特に大型貨物船やタンカーの通行が制限され、貨物量を減らすか、通航そのものを延期せざるを得ない状況が発生している。 ●通過待機時間の増加 水位低下の影響で、通航可能な船舶の数が制限されているため、運河を通過する船舶が順番待ちを強いられている。これにより、輸送スケジュールに遅延が生じ、物流全体に悪影響が及んでいる。 ●世界貿易への影響 パナマ運河は世界の貿易の重要なルートであり、運河を通過する貨物の遅延や制限は、世界中の貿易ネットワークに波及効果をもたらしている。特にアジアと米国大陸を結ぶルートに依存する海運企業は、代替ルートの検討や輸送コストの増加に直面している。 といったような影響が確認されている。
水不足に対する長期的な課題
パナマ運河は従来、1日あたり36隻の船舶が航行可能だったが、一時期は1日あたり 「24隻」(33%減) まで減少した。しかし、現在は雨期に入り降水量が安定しているため、規制が緩和されている。 今回のガトゥン湖の水位低下はエルニーニョ現象による一時的な問題だったが、水不足が長期的な問題として浮上する可能性もある。 パナマ運河の水源はガトゥン湖で、その水は周囲の山々の川から供給されている。しかし、周囲の山々が農地化が進んでおり、本来の保水力が失われつつある。また、ガトゥン湖はダム湖であるため、雨量が多いと水を放流する必要があり、一度にためられる水の量には限界がある。 現在、新しい貯水湖を造るなどの対策が進められており、再び訪れる可能性のある水不足の解消に向けて動き出している。
持続可能な水管理の重要性
2023年からのパナマ運河の水位低下は、主にエルニーニョ現象による降雨量の減少が原因で、この問題は世界の貿易に大きな影響を与えている。 パナマ運河庁はさまざまな対応策を講じているが、長期的な視点で持続可能な水資源管理が求められている。 また、エルニーニョ現象のような気候変動の影響を軽減するための対策を進めることも必要だ。 今後はパナマ運河の運営と気候変動に注目し、世界の貿易ネットワークの維持に向けた取り組みが重要になる。
岩城寿也(海事ライター)