「老年病は治せるものばかりではない」90歳現役医師がパーキンソン病患者に毎回伝えた言葉とは
医師としては、病気を治してあげられないもどかしさはあったが、老年病科という診療科の特性上、治せない病気やそもそも老化でどうにもしようもない患者さんが多かった。それゆえ、患者さんに、病気があっても仲良く暮らしていくことを丁寧に伝え、患者さんの不安を減らすことに尽力するほかなかったのだ。 ■高齢者になったら病気を完全に予防することは難しい 多くの人は若いうちは、「病気を予防すること」を重要視するが、高齢者になったら病気を完全に予防することは難しい。気をつけていようがいまいが、老化はいやおうなしにやってくる。健康診断に行けば、必ずといっていいほど何らかの異常あるいは病気が見つかり、何の異常も病気もないという人はむしろ珍しいだろう。加齢とともに体の機能が衰え、病気になりやすくなるのは自然なことだ。一人でいくつもの病気を抱えることも少なくはない。 多くの高齢者は、若いころと比較して、大きく機能が低下してしまったこと、あるいは病気などにより不自由になったことを嘆く。しかし、それでは悲しくなるばかりだ。 大切なことは、病気があるかないかではなく、心豊かに自立した生活が送れるかどうか。病気があったとしても、それが高齢者の自立の障害となるものでなければ、あまり問題視することはないのだ。 むしろ高齢者になったら、病気を思い切って受け入れ、病気と仲良く暮らすぐらいの気持ちになれるといい。病気を抱えながらも生活の機能を保ち、QOL(生活の質)の低下を防ぐ、いや、むしろQOLの向上をめざす意気込みを持ちたいものだ。
※『90歳現役医師が実践する ほったらかし快老術』(朝日新書)から一部抜粋 ≪著者プロフィール≫ 折茂肇(おりも・はじめ) 公益財団法人骨粗鬆症財団理事長、東京都健康長寿医療センター名誉院長。1935年1月生まれ。東京大学医学部卒業後、86年東大医学部老年病学教室教授に就任。老年医学、とくにカルシウム代謝や骨粗鬆症を専門に研究と教育に携わり、日本老年医学会理事長(95~2001年)も務めた。東大退官後は、東京都老人医療センター院長や健康科学大学学長を務め、現在は医師として高齢者施設に週4日勤務する。
折茂肇