〈選挙結果の読み方〉田中優子
とんでもないことになっている。早急に教育内容を見直さねばならない。 選挙結果の分析、振り返りがなされる中、私が衝撃を受けたのは7月11日のインターネット番組Arc Timesに、ゲストとして登場した古谷経衡さんの分析だった。古谷さんは、2000年ぐらいから起こっている日本の変化が、東京都知事選に影響したと見た。そして、すぐ変革をしても、その効果が現れるまで20~30年かかる、と。50年の視野で考えておられるのだ。
私なりの理解で紹介する。驚いたのは、多くの人々が本や新聞を、スポーツ新聞を含めて読めなくなっている、という事実だった。漫画も読み続けることができず、アニメシリーズも継続して見ることができない。映画は15分で粗筋を知るか、早回しで見る。本や新聞を読まないことは知っていたが、「読まない」のではなく「読めない」のだとは、考えもしなかった。 この状況説明は、石丸伸二氏がなぜ都知事選で票を伸ばしたかの分析で述べられたものだ。石丸伸二氏の選挙戦略とは、以下のものだった。 都民の多くは政策を読んでもわからないので政策には言及しない。長く演説を聞くことができないので15分で切り上げる。その代わりインターネット上のさまざまな手段で膨大に発信する。理解して投票することができないので、体験談で共感者を増やす。自身が具体的な議論ができないので、攻撃的なもの言いをする。それによって、議論していないのに論破したように見え、「勝った」と感じさせることができる。 質問に答えられない時は、質問者を冷笑しながら逆に質問する。その手法で石丸氏は立候補の動機である自らの承認欲求が満たされた。その方法に共感し、自分もそうやりたい、と思う人は実は20~30代ばかりでなく、40~50代にも多いのだという。 これは手法の話ではない。手法であるならとにかく都知事になり、実は隠しもっていた政策を実現する、ということも考えられる。しかしやはり政策はなく、やりたいこともなく、どうやら本当にカラッポなのだ、と古谷さんは見た。 石丸氏が尊敬している人のリストの中に上野千鶴子と櫻井よしこの両氏が入っていることを私は不審に思っていたが、そのあり得ない両立は「読んでいないから」成立したという。納得。京都大学を卒業して大手銀行に就職する人も「本を読めない」「読んでも理解できない」時代になっているのである。確かに入学試験や就職試験は、本が読めなくても通る。